実父の虐待によって、姉を失った過去を持つ真紀。
在宅医療の医者として働く彼女の前に、七年前に突然姿を消した元恋人克秀が現れる。彼がいた場所は、ホスピス。克秀の病はグリーオマ……末期癌であった。
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一見すると不幸を題材にしたお涙頂戴の娯楽小説に思えてしまう。しかし美しい文体と病の緻密な描写、そして主人公の細やかな心の動きがそれを許さない。
『死』というテーマを正面から向き合った小説なのにそれほど重さを感じなかった。登場人物はみんな聡明で魅力的だ。現実に打ちひしがれるのではなく、受け止めるのでもなく、巻き込まれて流されていく真紀。それが一層現実的で、悲しみを深めていると思う。
(以下ネタバレ)
姉の死後、『取り残されてしまった』と感じる真紀は、消極的に死を求めている。この『消極的に』という部分に心を打たれた。
生きることをうち消すために、患者の為にくたくたになるまで働く。日常を少しでも短くして、人生を縮めている。
向き合う必要のない男と婚約し、なぜ自分は生きているのだろうと自問する生活。こんな悲しい自殺があっていいのだろうか。
それに対して元恋人のヒデ(克秀)は、真紀に決して同情しない。それでいて、真紀の全てを受け止め、理解している。そして最期の見送る人間を妻ではなく真紀を選んだ。
恋愛小説のカテゴリに分類したが、正確には恋愛ではないかもしれない。ヒデと真紀の繋がりは、恋愛よりも深い理解者としての方が強い。
パートナーが必ずしも自分を一番理解してくれているとは限らない。自分が死ぬ時、私は誰を選ぶだろうか。そんなことを考えた。
- 感想投稿日 : 2008年11月16日
- 本棚登録日 : 2008年11月16日
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