モルヒネ (祥伝社文庫 あ 24-1)

著者 :
  • 祥伝社 (2006年7月1日発売)
2.77
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本棚登録 : 2070
感想 : 309
5

実父の虐待によって、姉を失った過去を持つ真紀。
在宅医療の医者として働く彼女の前に、七年前に突然姿を消した元恋人克秀が現れる。彼がいた場所は、ホスピス。克秀の病はグリーオマ……末期癌であった。

−−−

 一見すると不幸を題材にしたお涙頂戴の娯楽小説に思えてしまう。しかし美しい文体と病の緻密な描写、そして主人公の細やかな心の動きがそれを許さない。
 『死』というテーマを正面から向き合った小説なのにそれほど重さを感じなかった。登場人物はみんな聡明で魅力的だ。現実に打ちひしがれるのではなく、受け止めるのでもなく、巻き込まれて流されていく真紀。それが一層現実的で、悲しみを深めていると思う。

(以下ネタバレ)
 姉の死後、『取り残されてしまった』と感じる真紀は、消極的に死を求めている。この『消極的に』という部分に心を打たれた。
 生きることをうち消すために、患者の為にくたくたになるまで働く。日常を少しでも短くして、人生を縮めている。
 向き合う必要のない男と婚約し、なぜ自分は生きているのだろうと自問する生活。こんな悲しい自殺があっていいのだろうか。
 それに対して元恋人のヒデ(克秀)は、真紀に決して同情しない。それでいて、真紀の全てを受け止め、理解している。そして最期の見送る人間を妻ではなく真紀を選んだ。
 恋愛小説のカテゴリに分類したが、正確には恋愛ではないかもしれない。ヒデと真紀の繋がりは、恋愛よりも深い理解者としての方が強い。
 パートナーが必ずしも自分を一番理解してくれているとは限らない。自分が死ぬ時、私は誰を選ぶだろうか。そんなことを考えた。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 恋愛小説
感想投稿日 : 2008年11月16日
本棚登録日 : 2008年11月16日

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