キリストが身代わりとなった囚人、バラバを主人公とした小説。
場面はゴルゴタから始まる。
バラバは自分の身代わりに磔刑となったキリストの死を眺める。
元々バラバはキリストと面識があったわけではない。それでも自分の身代わりになった男のことが気になり、キリストの信者たちに近づき、彼は何者であったかを知りたがる。
しかし聞けば聞くほどに、キリストのことが理解できない。
その後も、何人もの信者と交流を持つも、彼は死ぬまでキリストを信仰することはない。
またかなり深い仲になった(と少なくとも相手側は思っていた)人間とも、本当の意味で心の交流をすることはない。
誰にも救いを求めず、誰をも救うことがなかったバラバ。
それでも恐らく信仰と愛とについて誰よりも深く考え続けたバラバ。
著者から明確な結論は提示されない。また語り過ぎないくらいの簡潔な文体も相俟って、本書全体が問いかけのまま終わってしまう。
読者はバラバになって、自分が救われて生きていることの意味を考え続けることになる。
個人的に、最後の「おまえさんに委せるよ」の「おまえさん」はキリストではなく「死」=「無」なんじゃないかというような気もする。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
北欧文学
- 感想投稿日 : 2012年6月30日
- 読了日 : 2012年6月30日
- 本棚登録日 : 2012年6月30日
みんなの感想をみる