伊藤忠 財閥系を超えた最強商人

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  • ダイヤモンド社 (2022年12月14日発売)
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■井上準之助の二代忠兵衛への言葉 
「君の人物評定は大体正しい。その半面、感情が非常にきつい。感激性が強いのと、正義を愛する精神から少しでも曲がったやつを排し、人格者を重用したがる性格がよく見える。しかし、それはどうかな。能力と人格が並行する人もあるが、そうでない場合もままある。ことに君のような古い家では老番頭のなかには『命をかけて』などという人もいるはずだ。それはまことに迷惑な話だ。一方的な見方で物事を処理してはいけない。俺が君に言いたいのは、人格者ばかり使ってはいけないということだ」
 
■三代社長越後の座右の銘
 面白いことに彼の座右の銘もまた、二代忠兵衛が感心した井上準之助の言葉だった。
「翁には、若い頃からいろいろと教えられたが、事業経営の話の中に、経営にとって、人格者ほど危ないものはないというのがあった。これは翁がまだ若い時、のちに蔵相になって金解禁をやった井上準之助氏から、在米中に教えてもらった言葉だと聞いたが、聖人君子というだけでは経営は難しい。信用はできても、経営の才能は別だから、それを混同しないようにということだが、大変味のある教訓だと思う。事実私の知る限りでも、どうかと思う行き方で、うまく成功している人が多くある。それなりの手腕と努力はわかるが、そこに厚かましさというか、並々ならぬ神経の太さがある。人生は運、根、鈍というが、あるいは運と横着だといえるのではなかろうか」(前掲「私の履歴書」)


 すべての油田から石油が出るわけではないが、成功したら、石油を輸入するだけのトレーディングよも収入は増える。資源における事業投資が他のジャンルにも移っていったと考えるのが順当ではないか。


■CTC元社長佐武の言葉
「秘訣はある。3つだ。わたしはビジネスにおいて、3つ順番通りに大切にしてきた。グッドカスタマー。グッドプロダクト。グッドセールス」


■岡藤の改革
 社長に就任した人物が新たな施策をぶち上げるとすれば、まずは営業計画だろう。そして業績を上げるための督励だ。開発中の商品を発表したり、新興国への進出をアナウンスしたりするのが通例だ。
 ところが、岡藤は「売り上げを倍にしよう」とか「新商品を探してこい」と言ったわけではなかった。「会議と資料を減らそう」「朝早く来よう」「遅くまで酒を飲むな」といった地味な社内改革からスタートした。社員のモチベーションを上げることを最優先にしたのである。
 続いて手掛けた施策も社員のモチベーションアップに関わることだった。給与制度を改革して、社員の給料を上げた。
 それまで伊藤忠の給与制度は「個人の成果」と所属する「組織の単年度の業績」に基づいていた。だが、岡藤が詳しく分析してみると、個人の成果よりも組織の業績に比重がかかっていたのである。
 たとえば資源エネルギー分野では、個人の努力ではなく、資源価格の変動によって給与が決定してし まうことになる。
 そして、資源エネルギーの場合、組織の業績は、必ずしも単年度の成果とはいえない。過去に先輩たちがガス田に投資していたのが、ある年になってから一気に業績に反映されるといったケースもあるからだ。
「過度に組織の業績を重んじるのはフェアな考課ではない」
 岡藤はそう考えた。業績の良い部門の人間だけがモチベーションや愛社精神を持つのではなく、社員全員が機嫌よく毎日、働こうとする会社にしなければならない。人事制度、給与制度を変えるに当たっては綿密に調べて、新しく規定し直した。


 伊藤忠は「か・け・ふ」について、「稼ぐ」は商人の本能、「削る」は商人の基本、「防ぐ」は商人の肝と説明している。
「稼ぐ」は誰でもわかる。営業してもうけるけることだ。
 では、「削る」「防ぐ」とは何だろうか。そして、「削る」と「防ぐ」の違いはどこにあるのだろうか。
 前出の鉢村は二つの違いをこう説明する。
「『削る』は無駄を省くこと、『防ぐ』は不測の事態になっても大丈夫なように日頃から仕事をチェックすること。当社は削るよりも防ぐことに力を入れています」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・雑誌
感想投稿日 : 2023年5月13日
読了日 : 2023年5月13日
本棚登録日 : 2023年5月13日

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