八つ墓村 (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (1971年4月26日発売)
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感想 : 408
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急にふと読みたくなった横溝正史。
我が家には横溝正史とアガサ・クリスティは、全部ではないが一部二冊づつある。
一冊は学生時代に買ったものが実家に、一冊は働きだしてから買ったもの。
結婚して実家からも運んできたので二冊づつになった。
こういうところが無頓着なのか、実家にあるから持ってきて読もうと思わず、読みたくなると都度買ってしまう。どうせ買うなら読んでいない横溝正史にすればいいのに、そういうときは記憶に残るオドロオドロシイ場面が読みたくて仕方ない。
他は几帳面なのに、こういうところは持ってるのに気にせず買っちゃうんだね、本が好きなひとってみんなそうなの?と夫にも訊かれたけれど、多分みんなこんな勿体無いことしないんじゃないと答えた。
きっとこれはもう癖みたいなもので、もし何か長期間家を離れることがあってまたふと思ったら本屋さんで同じ本を買うのだろう。バカですよね。

有名すぎる本作は、実際に起きた悲惨な惨殺事件である『津山三十人殺し』をベースにしている。事実は小説より奇なり、きっと横溝正史はそう思ったのじゃないかなと想像したりする。
映画化やドラマ化も多くされているし、有名なセリフ、「八つ墓村の祟りじゃ〜」だったり、あんな格好のひとが深夜に走り回っているのを見たらそれだけで心臓が止まりかねない奇怪な殺人鬼だったりで、物語自体をきちんと知らなくても、ああ、あれでしょと誰もが知っているだろう作品。

こちらも金田一耕助シリーズではあるが、読むと金田一耕助って出てた?くらいに存在感がない。主人公は田治見辰弥。この作品は彼の回想のような形で語られるため、金田一耕助の存在が薄いのも仕方ない。
わたしが観た映画では金田一耕助役は渥美清さんが演じておられ、渥美清さんには申し訳ないけれど、どうしてもフウテンの寅さんにしか見えない。渥美清さんが出てくるたびに、オドロオドロシイ感じから笑いとペーソス溢れる感じになってしまう。ちょっと残念だった。
わたしは金田一耕助役といったら古谷一行さんがいいかな。石坂浩二さんだと知的で品がありすぎて原作のややオドオドした感じや身なりに構わない感じが足りない。やはり古谷一行さんに豪快に頭をボリボリかいてフケを撒き散らしてもらうのが一番いい。もう少し吃音気味だと更にいいけれど。

こちらと「犬神家の一族」は数ある横溝正史作品の中でも特に映像化されて生きた作品と言えるのではないだろうか。
読み返してみると落武者を村人が惨殺する場面も、田治見要蔵の村人惨殺場面もそれ程の衝撃はない。むしろ史実のひとつといった感じで淡々と描かれている。
これは子供が観ちゃ駄目じゃないか、今だったら間違いなくR-18指定されていそう。そんな作品を昔はお茶の間で気軽に観られたのだから、現代よりも随分ピリピリしていなかったなと思う。

戦後の混乱した時代、閉鎖された村にありがちな排他的な思想、絶対的な財力を持つ者と持たないものとの差、虐げられるままでしかいられない女性、ひとの心に残る怨みや妬み、いかにもな横溝正史の世界観が味わえる一冊。
そして読み終えるとやはり映像としても楽しみたくなる。確か最後に崖の上で尼子義久ら八名の落武者が血塗れの顔で笑っている姿が映るところが、とても恐ろしかったと記憶している。
この記憶を確認するためにビデオレンタル屋さんへ駆け込め。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年2月4日
読了日 : 2016年1月28日
本棚登録日 : 2016年1月26日

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