三つ首塔 (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (1972年8月22日発売)
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本棚登録 : 1081
感想 : 78
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『ひとり横溝正史フェア』で今回選んだ作品は「三つ首塔」。
こちらは読んだこともなく映像化されたものもあるようだけれど観たことがない。
タイトルに惹かれたので読んでみた。

両親を亡くし伯父宅に引き取られた音禰。
その音禰の遠縁である玄蔵老人の莫大な遺産を相続する話が持ち上がる。ただ、遺産を相続するためには玄蔵の決めた相手との結婚が条件だった。
見知らぬ結婚相手とはじめて会おうというホテルで開かれた伯父の還暦祝いで、その相手である男は何者かに殺されてしまう。

こういう設定は「犬神家の一族」にもあった。
当然結婚するべき相手は殺されて、そうなると宙ぶらりんとなる遺産を巡って血で血を洗う惨劇が起こるに決まっている。
ただ本作が少し違うのは、いつもの横溝正史ならひとり、またひとりと殺されていくところを、物語はじまってすぐに三人が殺されてしまう。ちょっと乱暴な幕開け。
いきなり三人殺されて、その後も勢いついたままドンドン殺される。
結局十人位殺されてしまう。
殺されすぎ。
こんな大量殺人事件が起きているのにたいして進展しない捜査。日本警察大丈夫なのか。

最初の事件が起きたとき、催し物としてアクロバット・ダンサーの描写などがあるが、江戸川乱歩が好んで用いそうな感じがした。
作品全体から淫靡な雰囲気が漂っている。

音禰はホテルで出会った男に強姦される。
その男はその後も音禰の近くにあり、繰り返し音禰を抱き、音禰を護るナイトのような役割をする。音禰も男にのめり込んでいく。
この設定がおかしすぎる。
はじめて会った時点で音禰はその男に一目惚れしてはいるのだが、そうであっても自分を強姦するような男に脅迫されるわけでもなく繰り返し抱かれ、愛するようになどなるだろうか。
考えられない。あり得ない。
そもそも大量に殺人事件が起きていて犯人が捕まらない時点で無理があるところに、こんな男性の夢物語のような、売れないアダルトビデオまがいの陳腐な設定があると読む気を無くす。

また、この男は音禰を強姦して強い男臭い男みたいに装っていたが、実は音禰がはじめての女性で、ひたすら音禰を愛していたという突然の純情設定も強引だと感じる。
はじめての性行為が強姦って人格に問題があるとしか思えない。
そこに男の純情みたいなことを絡められると、ただ気持ち悪い。

更にこの作品のツッコミどころとしては、高いビルから飛び降りても、深い穴の底で落ちてくる音禰を抱き止めてもたいした怪我をしない男というところ。
不死身すぎる。
どんだけ丈夫な足腰だ。
普通なら死んでもおかしくないし、そうでなくても後遺症のある怪我をする状態。
もう少しきちんと現実的な設定や展開をして欲しい。

この作品は、今まで読んだ横溝正史の作品の中では最も残念な作品。
頭で空想するだけでなく、きちんと現実を見据えて物語を作らないといくら小説といってもなんでもありではないはず。
犯人もかなり序盤でわかったし、理由の見当もついた。
正直に言って、横溝正史が真剣に書いたかどうかさえ疑わしく思える。
この残念作品のためにせっかく盛り上がっていた『ひとり横溝正史フェア』が盛り下がってしまう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年4月11日
読了日 : 2016年3月29日
本棚登録日 : 2016年3月15日

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