古本屋で平積みになってて、装丁買いした。
ハシブト?ガラスの善福丸が美しいカバー。
そして、牧田家に洋館(陋屋と佐知は思っている)に暮らす四人の女。ちょっとシェアハウス的に新しいカタチの血の繋がりにかかわらない家族模様が面白い。読み始めて、牧田鶴代、佐知、雪乃、多恵美、、、これはマキオカシスターズ(かのマスターピース、細雪ですな)のパスティーシュなのでは、と感じながら(名前と性格がめちゃそのまま)読み始めたら、
p56
「ねえ、気づいてる?」
と言う。「私たち、『細雪』に出てくる四姉妹と同じ名前なんだよ」
(中略)
「鶴代さんは浮世離れ、佐知は世間知らずの苦労性、私は男の影も形もない、多恵は男に関してまことに奔放」
と、ネタ元(笑)の説明が行われる。細雪を読んだことのない人にもそれなりにわかるように。
ということで、最後には下痢でおわるのか?とドキドキさせられたが、ほんわかと穏やかな読了感だった。
こてこての文芸かというと、そこはかとなく漂うファンタジー感。
なんといってもカッパ。カッパが良い。
そして、佐知の刺繍愛(刺繍ヲタ)っぷりが素敵。
p202
>ほとんど全身全霊をこめて刺繍に取り組んでいるからこそ、「本当に私の刺繍をわかってもらえているのか」と常に不安だった。ハンカチやブライスやバッグのワンポイントとして、ただ単に「あら、かわいい」ですまされてしまうのは、佐知にとってときに耐えがたいのであった。そのワンポイントに、どれだけの時間と思考と情熱を傾けたか。だれか一人でも想像してくれるひとはいるのだろうか。
ここのところ、”刺繍”を他の言葉に入れ替えて、声を大にして叫びたいやつ。
さらにつづく、佐知の心の叫び
>むろん、おおかたの場合、佐知は納期にまにあうように必死に作品を仕上げ、「気に入ってくれるひとがいるといいな」とおおらかに構えている。だが、たまにー弱気になったときなどー叫びたくなる。私は遊びも恋も放擲して、毎日チクチクやっている!その気力と根性にちっとも気づこうとせず、「あら、かわいい」「オシャレ」などと気軽に刺繍を消費し、あまつさえ私の刺繍で身を飾って、街歩きやらデートやらを満喫するのか、おのれらは!
そして、こう続く
>一針一針に我が情念をこめて、おのれらの魂に直接刺繍してやりたい。おのれらの魂から噴きだす血潮で白糸を種に染め、ものすごくリアルな髑髏を刺繍してやりたい!
飲んでたコーヒーを吹きそうになった。
やっぱり主人公はさちこ、
谷崎の愛したさちこ、
滾るわ(笑)
静かに、面白い小説だった。
- 感想投稿日 : 2022年4月29日
- 読了日 : 2022年4月29日
- 本棚登録日 : 2022年4月29日
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