本作は、直木賞を受賞し映画化もされた作品のいわば「完全版」ともいえる内容で、香川県観音寺市を舞台に、バンド活動に励む男子高校生たちの青春を真正面から描き切った小説である。これが推理小説であれば、クライマックスの文化祭シーンで突然停電が起きて、(『悪の教典』みたいに)何者かが乱入して殺人事件が起こるだろうし、そうでなくても機材トラブルとか、教職員の突然の中止要請とか、べつにクライマックスに限らなくても資金問題で活動が頓挫するとか、この手の主題を描いたエンタメ小説は多いけど、ふつうであればそういった「ありがち」の展開に流れてしまうだろう。かくいう私も、途中までそういう結末になるのではと思っていたので、最後の最後まで万事快調に進むのを読んで、一瞬、なあんだ、と思ってしまった。しかしその後すぐに思い直し、これでいいのだ、と今では心から思っている。青春は、それ自体をありのままに描くだけでじゅうぶんに画になるのである。等身大に生きる主人公たちの、眼差しのなんと輝いていることか! こういう物語が書けるのであれば、へんな小細工はいらないだろう。青春小説を標榜するにふさわしい1冊だ。「ロッキング・ホースメン」は、私のなかでいまだにデンデケデケデケとメロディを奏で続けている。
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- 感想投稿日 : 2013年8月18日
- 読了日 : 2013年8月18日
- 本棚登録日 : 2013年8月18日
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