終戦のローレライ(1) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2005年1月14日発売)
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本棚登録 : 2591
感想 : 229
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 終戦記念日に1日遅れて読み終わった。長かった。福井晴敏は4作目だけれど、長いだけあってこれまでの冷徹鋭利な若者と熱血情緒の中年の組み合わせという構図より複雑になっている。ただ基本は同じ。やはり熱い、単純明快浪花節的に熱い。それが鼻について辟易する部分もあるけれど、それを差し引いてもたぶん秀作の部類にはいるだろう。
 「亡国のイージス」の続編として映画用に要請され、第二次大戦、潜水艦、女というテーマを与えられて書いた作品なのだそうだ。それだけでこんな超大スペクタクルを書き上げる力量も大したものだが、そう思って読めば海軍軍艦の艦長の生き方が背骨になっていて艦内の意外な反乱分子との虚々実々の駆け引きなど、類似点が多々ある。終末のタイムリミットへ追いつめられてゆく緊迫感も似ている。時代背景も舞台も異なるとはいえ、同じ著者が書くのだしそれはしようがないのだろう。
 潜水艦内の具体的描写の文字通り息詰まる現実感に対して、物語の中心をなす荒唐無稽なローレライシステムの非科学性はSFだと思えば許せるけれど、ただやはり文庫版4巻は長い。もう少しよけいな挿話を刈り込まないと緊張が持続しない。最後の4巻目にはいっての伊507がひとつにまとまってからの手に汗握る展開は圧倒的な迫力だし、どうまとめるんだろうと案じられた終結もなるほどうまいなあと思わせるだけに、よけいに前半部や後日譚の冗長さが惜しいと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 現代小説
感想投稿日 : 2012年12月31日
読了日 : 2012年8月16日
本棚登録日 : 2012年12月31日

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