福井晴敏の短篇集。長篇だろうが短篇だろうが福井晴敏臭がプンプン。誰が読んだってすぐ作者名を当てられるだろう。それに耐えられない人にはたまらなくクサくてやってらんないよとなるのだろうが、この世界にどっぷり肩まで浸かれる読者にはこれがたまらない魅力となる。まさに「川の深さは」のクイズの答え如何というわけだ。
まったくこれでもかというくらいに類型的な主人公たち。基本的に熱いオヤジと冷めた少年という組み合わせ。誰かが言っていたがまさに鉄板。最後のちょっと長い「920を待ちながら」がやはり秀逸だ。だまし合いというか化かし合いというか何が真相なのか読み進むにつれて二転三転する筋書きも、最後の緊張感もうまい。何より木村と名乗る若き兵士の正体が明かされたときに、おお、と感動するというおまけまでついている。サービス満点。あとは「サクラ」かな。こちらは珍しくオヤジと少女なんだけど、最後にひねりが効いていて、珍しくハッピーなエンディング。それに挟まれた「媽媽」と「断ち切る」はひとつながりの連作ものになっていて、これも女性が活躍する。最後の大仕掛けが読みどころ。という具合にどれもがまずまずおもしろく読める。浪花節といわれようが熱くなければ生きる甲斐がない、ぼくはそう思うね。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
現代小説
- 感想投稿日 : 2013年2月18日
- 読了日 : 2013年2月17日
- 本棚登録日 : 2013年2月18日
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