名刀伝(二) (ハルキ文庫 ほ 3-5 時代小説文庫)

著者 :
  • 角川春樹事務所 (2015年11月14日発売)
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感想 : 2
5

ガリヴァー旅行記を読み、解説などを検索していたら、山田風太郎さんがガリヴァーが日本に滞在した時分の短編を書いているということ。これは読まなくては。
ガリヴァー旅行記はこちら。
https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4327180521

こちらの「名刀伝」は、日本刀をモチーフにしたアンソロジー。
【柴田錬三郎「虎徹」】
虎次郎興里(おきさと)は父親の跡を継ぎ鍛冶職人になった。
父は激高し嬲った女を斬り殺すような男だった。
そして虎次郎もその性質を継いでいた。
頼まれた佐料の検分に来た家老から時代遅れと笑われた興里は、家老に斬り付け出奔する。

30年間黙々と刀を研ぎ上げてやっと満足の行く名刀を作り上げて「虎徹」の銘を入れた。
それは石灯籠も切断した。

さらに数年後、虎次郎は稲葉石見守に召し抱えられる。
石見守からの注文にまた一本を作り上げる。
「この一振りは、怒気を込めて居まする。心が平らであればこの刀も穏やかでしょうが、胸中が激高すれば狂瀾の刀となりましょう」

10年後、石見守は殿中にてこの差料を抜き放ち、大老堀田筑前守正俊をを刺したのだった。

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人の怒りはその指物に宿るのか。
石見守の殺傷事件は赤穂事件の数十年前ですね。赤穂事件のときにも「あのときは首尾よく打ち果たしたのに」と浅野内匠頭の不首尾を不手際扱いだったんだとか。

【東郷隆「試し胴」】
新徴組の下っ端生多目喜三郎(なまためきさぶろう)には、実は良い刀を見分ける眼を持っていた。
ある時たまたま古道具屋で見つけた刀は【大和則長(やまとのりなが)】だった。
この一振りは、新徴組幹部により組の象徴とも言われるようになったが、新徴組内には実用性を疑うものもいた。
そこで新徴組幹部たちは、極秘裏に遺体を入手して試し切りをしようとするのだった。

喜三郎は自分が見つけた名刀が人の血を吸うのを見た。
人にとって首とは戦のときの目印となるだけのもの。そして胴は打ち捨てられるもの。それなら侍とはなにに尊厳を持てばよいのか。


【赤江瀑「艶刀記」】
戦後の日本、GHQは日本人から刀、鎧兜、空気銃など、武器になるものを取り上げる。
それから30年。夫を戦争で亡くした矢吹祝子は親族すべて戦争で失い、自分は独り身で三味線一本で暮らしを立てている身だ。
彼女はずっとGHQに取り上げられた刀【越前守助広】の返還を望んでいた。
その一振りは、夫の実家に代々伝わり、夫婦の初夜の床にのみ必ず飾られるというものだった。
刀と再会した初老の祝子の心には、ずっと目覚めないはずの感情を呼び覚ますのだった。


【澤田ふじ子「贋の正宗」】
馬蹄屋で働く岩蔵は口は悪いは気風がよく、弱いものにも優しかった。
そんな岩蔵の打つ馬蹄は一品だった。
そんな腕前を小悪党たちが目につけ、名刀の贋作を作らせる。
岩蔵は悪いことをしている気持ちもなく、ただ見せてもらった本物の【相州正宗】に惹かれて贋作を作るのだった。

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田舎に埋もれるのは惜しいと見いだされた男が、ちょっと変な道に引き込まれてしまう。
まあ最後はそんなに悪くはならないのがよかった。

【海音寺潮五郎「村正」】
これは小説ではなく、徳川家にとって縁起の悪い【村正】についてのエッセイのようなもの。
家康の祖父から四代に続いた因縁のこと、村正と正宗の刀鍛冶氏のこと、では村正は徳川以外の武家にとってはどういう扱いだったのかなど。
そして実は海音寺潮五郎の手元にも一度は村正を入手したのだが、それを手放すことになったというお話。

【山田風太郎「ガリヴァー忍法島」】
江戸に向かう浅野家の一行と前後したオランダ人一行。
浅野家家臣の堀部安兵衛は、その異人のなかの一人に目を留める。
その異人はレミュエル・ガリヴァーと名乗る。
ガリヴァーは日本という国はとても興味深い、もっと知りたいという。
「日本は、まず、小人の国。そんなに小さいのにちゃんと城があったり祭りをしたり恋をしたり一人前。そして人間より犬や馬が威張っている」
道中で熱田神宮が浅野家に助力を求めてくる。
なんと押し入った異人たちにより、三種の神器の一つである天叢雲剣を盗まれたという…。

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日本刀のような切れ味鋭い短編集最後の一作として、たいそう人を喰ったようなスケールの大きい話で終わらせていました。

実際に、オランダ人一行が、吉良家の一行と道中で前後することがあったというのと。
そして「ガリヴァー旅行記」でガリヴァーが日本を訪れたのは、日本で言えば松の廊下事件の数カ月後。
さらにこの時代は、イギリスの海賊キャプテン・キッドもいたころだ。
それら、歴史で実際にあった出来事に、ガリヴァーという人物が実際に日本にいたら、そして赤穂浪士となる堀部安兵衛と行きあっていたら、さらにキャプテン・キッドが日本に上陸して国宝盗難事件をしたら、という実に荒唐無稽でスケールの大きい話となっている。
その上山田風太郎さんの妖術忍法の技(女陰が〜男根が〜みたいなやつですね/^^;)や、ポーの「黄金虫」に出てきたような暗号まで出てくるというごちゃまぜ闇鍋状態。
また、「ガリヴァー旅行記」の本編は16世紀イギリスの風刺小説だといわれますが、山田風太郎さんは小さい人とか生類憐れみの令とかは日本でも同じだって感じたようですね。風刺とはその年代が過ぎってしまったらわからなくなる事が多いのですが「ガリヴァー旅行記」は場所も年代も離れていても、「それ、自分のところと同じ」って感じるものなのでしょう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ●日本文学
感想投稿日 : 2021年6月10日
読了日 : 2021年6月10日
本棚登録日 : 2021年6月10日

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