バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) [Blu-ray]

監督 : アレハンドロ・G・イニャリトゥ 
出演 : マイケル・キートン  ザック・ガリフィアナキス  エドワード・ノートン  エマ・ストーン  ナオミ・ワッツ 
  • 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
3.44
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感想 : 101
4

映画が始まって画面に現れるのは宙に浮く男。
彼の独白「なんでこんな事になったのだろう」。
いや、こっちが聞きたい。

男が振り返ったらマイケル・キートンだった。
彼が演じるのは、20年前にバッドマンというヒーロー映画で大人気…じゃなかった、バードマンというヒーロー映画で大人気だったが、現在は過去の人となった俳優リーガン・トーマス。
 はい!私はマイケル・キートンとティム・バートン監督から始まったバッドマンシリーズは全作見てました!

…しかしそんな栄光からも20年。コミックヒーロー映画で大人気にはなったが、自分は本当は真面目な舞台がやりたいんだ。
そこでレイモンド・カーヴァーの「愛について語るときに我々の語ること」を演出・脚本・主演して、初日も間近に迫っていた。そう、自分が俳優を目指したのは、バーでレイモンド・カーヴァー本人に認められたことがあるからだ!(…のちに、ある人から「カーヴァーは酔っ払っていて誰にでも同じこと言ってんだろ」と否定されたが)
しかし共演者が稽古中に怪我をして、代役に呼んだブロードウェイ俳優マイク・シャイナー(エドワード・ノートン)はいけ好かないやつだった。

さらにリーガンにはバードマンの幻影がまとわりつき「世間は文芸なんて求めてないんだよ、バードマンに戻っちゃいなよ!」とか言ってくるし、リーガンも自分がバードマンのような超能力が使えるという妄想が日常化している。
 バードマンのコスチュームは、マイケル・キートンによる自己パロディってところでしょうか。バットマンとバートマンのマスクから見えるマイケル・キートンの唇が同じで懐かしい 笑。

映画の特徴は、全編ワンカットであるかのように撮られたカメラワーク。カメラを回すことにより時間と場所の移動を短縮させたり、超能力やバードマンの具現化など妄想が現実に侵食してきたり、前衛芸術的というか、目まぐるしいというか。

登場人物たちもみんな賑やかというか、かなりやかましい。
ヤク中保養所から出てきてリーガンの付き人をしている娘のサマンサ(エマ・ストーン)、サマンサの母親で元妻、リーガンの子供を妊娠したという女優(恋人はいっぱいいるからあなたの子供じゃないかもしれないけど、結婚してほしいわけじゃないから良いわよね、という関係)、「あんたの舞台なんか見ないけど酷評することは決まってる」と言い放つ芸術ジャーナリスト、この舞台でブロードウェイ進出を目指す女優(ナオミ・ワッツ)。
そんな中でも一番喧しいのはやっぱりリーガンで、すぐに「もう舞台は中止だ!」と投げ出そうとする。
認められたい反面、拒絶されたら怖い、過去にバードマンとして大成功しているだけに、この年になってからの酷評はきつい。むしろアメコミヒーローのやってた自分が高尚な演劇なんてバカにされるのはわかりきってるし、周りのみんなも好き勝手やってるし、もう辞めたっていいじゃないか!
…そもそも、マイケル・キートン主演のバッドマンシリーズって、ハリウッドで名優と呼ばれる人たちが嬉々としてコミック悪役を演じた最初の映画だったのではないでしょうか。
アカデミー賞常連のジャック・ニコルソンが白塗りで「月夜の晩に悪魔と踊ったことがあるか?」とか、ダニー・デヴィートがよちよち歩きのペンギンとかを演じたから、今日のアメコミ映画繁栄の元になったと思いますが、しかし当時はアカデミー賞俳優がそんなのに出るのかーみたいな風潮もあったと思います。
それをこの「バードマン」でも「リーガン・トーマスなんて所詮はコミックヒーローで当たっただけの一発屋。文芸界に何の用?」みたいな扱いなのでしょう。

…それでも舞台は初日を迎えるんだが、本番中に大トラブルが続発!しかしここはヤケになったリーガンが一世一代の好演技をしたために、舞台は大好評大成功!
その大トラブルにあたりリーガンは大怪我をしたんだが(映画の画面としてけっこう怖い)、それさえも成功話の美味しいネタになった。

しかし全くわからなかったのがラストシーン。
病院のリーガンは、大成功記事(「酷評する」と言っていたジャーナリストもちゃんと見て、べた褒め記事を書いていた)を見ても落ち着いていると言うか、どこか他人事の感じすらある。
そしてラスト。良いように読み取れば過去のバードマンの栄光を乗り越え新たな飛躍をした。そのまま読み取れば自殺した。
前者ならいいんだが、ここまでひねくれた映画の作り方をしてそんないい終わり方になる?後者だとしたら、一世一代の好演技でも骨に染み付いた自分自身をひっくり返すことはできなかったのかということと、いったいどこからがリーガンの妄想だったの?
「ラストでびっくり★」という終わり方はたくさんあるが、奇を衒うだけだったり、普通に終わるとダサいと勘違いしていて余計な捻りを加えているものはスッキリしない。ひねくれた主人公のひねくれた映画なんだから、ラストくらいはスッキリさせてくれよ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ●海外映画
感想投稿日 : 2022年8月4日
読了日 : 2022年8月4日
本棚登録日 : 2022年8月4日

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