『鈍色幻視行』を読んだ後、気になって仕方なかった本。
幻の作家「飯合梓」によって執筆された幻想譚といったらいいのだろうか。
リバーシブルカバー仕様になっているところにも細やかさを感じる。
昭和初期の遊廓だろうか、山のなかにある「墜月荘」にいる私には三人の母がいる。
鳥籠を眺めて、ときおり奇声を発するのが産みの母・和江であり、身の回りのことを教えてくれる育ての親は、莢子。
無表情で帳場に立つのは文子。
私が鳥籠のなかにいるように三人の母をじっと眺めている。そんな奇妙な感覚のなか始まる夜と、夜が終わるところで生きていた。
私が見たもの。
私が書いたもの。
それは、まるで空想の出来事のようであったがすべてが終わったとき、現実だと感じる。
荒唐無稽な話のようであると思わせるのが、またこの昭和初期という時代だからだろうか。
私自身が何者であるのか、性も偽ることで「墜月荘」でいられた理由や私がしたことは本当なのか…。
あの「墜月荘」を忘れることがない私は、ずっと「ビイちゃん」のままでいたかったのかもしれない。
妖しく昏い話だった。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2023年9月25日
- 読了日 : 2023年9月25日
- 本棚登録日 : 2023年9月25日
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