基本的には右翼的言説による大衆社会批判。
それをニーチェに基づいてやるというのがひとつの特徴。
もうひとつは前著『ゲーテの警告』で用いたという「B層」という概念の使用。
B層というのは、2005年、いわゆる郵政選挙の時、自民党が広告会社に作らせた企画書に登場するもので、IQの高低と構造改革への是か否かで国民を4つに分けたもののうち、比較的知能が低くて構造改革に肯定的な一群をいう。郵政選挙の取り込み対象はB層であり、著者の攻撃対象もこのB層である。構造改革に肯定的ということは「民主」「平等」「人権」といった近代的価値観を無批判に受け入れている一群ということであり、これが日本をだめにしているというのが著者の主張である。
確かに現在、民主主義は悪しき面を示しているかもしれない。そうしたいらだちには私も共感するところは大いにある。しかしながら、民主主義においては少数意見を尊重しろとはいわれるものの、実は尊重されないと著者は指摘する。そのくせ、ニーチェに基づく「正しい格差社会」において《精錬された者》が《凡庸な者》を大切に扱うのは義務であるとニーチェはいうと著者は述べるのだが、その義務はえてして守られないので、次善の策として民主主義ができたのではないだろうか。総じて現代社会への痛烈な批判は面白いが、深みには乏しく、期待はずれだった。
だいたい著者は、本書をどの層に向けて書いているのだろうか。行がえと太字の多用は読みやすいので、知的に低い層を狙っているとしか思えないのだが、著者によれば「バカを論駁するのは不可能」であり、B層に対して訴えかけているとしたら矛盾である。いやB層は自分がB層だとは思っていないので、著者の弁舌でB層の思想を変えようという深謀遠慮の書なのかも知れないが。
- 感想投稿日 : 2016年2月5日
- 読了日 : 2016年2月5日
- 本棚登録日 : 2016年2月5日
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