「緑色の獣」「沈黙」「氷男」など七つの短編が収録されている。「恐怖」と「暴力」が作品集全体の大きなテーマになっていると思う。
個人的に「めくらやなぎと、眠る女」という作品にでてきた「アパッチ砦」という映画が気になりそれも観てみたが、面白い映画だったのでこちらもオススメ。
ここでは、「トニー滝谷」について書く。
すごく実感としてわかる話だった。誰でも孤独で、自分がどんな核を持っているのか、いないのかわからずに物欲に流されて生きている。
恋をしてはじめて自分が孤独だったことの怖さに気づく。そして、恋を失ったとき、父親を失ったとき、彼らの残した痕跡を見るとき、自分が本当に一人ぼっちであることが重くのしかかり、愛した人のことを忘れてしまいたくなる。愛した人の残り香が憎らしく思えてくる。すべて忘れてしまいたいのに、どうしても忘れられない。
自分が孤独であることを引き受けて生きていかねばならないトニーと、自分の孤独さに気づかずに死んでいった父親。物欲を捨てきれない妻。そんな妻のことを想像して涙を流す女。みんなそれぞれに孤独を抱えていた。それに気づける人間と、気づけない人間がいる。人は恋で孤独が忘れられるのだろうか。今の日本では、それは否としかいえないのかもしれない。
近代小説では主人公になりえなかったトニーのような自分という核のない人間が主人公になっている不思議。そして、トニーのように自分の核といえるものが自分の中に本当にあるのかと自問せずにはいられなくなる不思議な怖さを感じる。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
∟村上春樹(小説)
- 感想投稿日 : 2011年10月10日
- 読了日 : 2005年11月30日
- 本棚登録日 : 2011年10月10日
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