キャッチャー・イン・ザ・ライ

  • 白水社 (2003年4月11日発売)
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不安や不満が蓄積しつつある現代だとはいうけれど、なかなかどうして、与えられた環境のなかで自己充足感を得られている人々も少なくないようである。そんななかこの小説を読むと、この主人公に対しては、やはりこうも言いたくなるというもので。

「けっきょく、世の中すべてが気に入らないのよ」(本書、280頁)

まったく、妹・フィービーのこの言葉どおりなのだ、このホールデン・コーフィールドという人物は。物語は最初から最後まで一人称語りで進むのだけど、彼のこの「他己」不全感は異様にすら、映る。

けれど、ホールデンはかたくなにその言葉を拒み、そして、唯一心を許している妹のその言葉に、とことん落ち込んでしまうのだ。なぜなら、彼が本当に「クソうんざりしちまっている」のは、「世の中すべて」に対してなんかではない。むしろその反対で、「どんなことにも意味があるってことを、みんなぜんぜんよくわかってない」(284頁)ということ、つまり「世の中すべて」のことに意味があるんだってことを誰もわかっちゃいない、そのことに対してなのだから。

以前読んだ『ライ麦畑でつかまえて』は、結局途中で放り投げてしまった。旧訳が悪かったというわけではおそらくないと思う。それはきっと、ホールデンのこの「苛立ち」の源泉が、そのときの私にはまったく理解できなかったから。彼の「苛立ち」は私のボーダーラインの向こう側にあった。

だけど、果してボーダーの向こうにいるのは、私なんだろうか。ホールデンなんだろうか。はじめて、最後まで読み終えたいま、そう思う。

終盤近くに展開される、妹やかつての師との夜中の対話はそのまま、「私」とホールデンとの対話となっていった。こういう本に出会うと、うれしいものだ。もう一度ゆっくりと読み直してみたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年7月4日
読了日 : 2012年6月11日
本棚登録日 : 2013年3月5日

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