哲学に生き、死んだ人。哲学・思想と行為を一致させた人。自らの命を度外視して正しさを主張した。
哲学の基本書。プラトンの著作はたいてい対話形式で書かれているが、この著作に限っては、途中メレトスとのやりとりがあるものの、主としてソクラテスの一方的な独白形式で話が進む稀な作品。確かに弁明という性質上、形式的には必然かもしれないが、ソクラテス自身が聞き惚れそうになったと言うほどの (流されないようにと陪審員へ注意を促すのが真意だろうが)メレトス側の弁論が一切書かれていないのは、双方の主張を取り上げて吟味するプラトンの一連の作品からすると読者にとってあまりに一方的で異例な事のように思われる。例えば饗宴においてソクラテス以外の人々がエロースに関して延々と自説を述べたように、ソクラテスに関係ないから割愛するということはありえないわけだし。『ソクラテスの弁明』は「ソクラテスの」ということがまず面白い。
無知の知を語るようになった経緯、当時のソクラテスがアテナイにおいてどういう扱いであったのか、また彼自身がどうやって生きてきたのかを知ることが出来る。社会的・処世的・通俗的正しさではなく、論理的に、正しさにおいて正しい選択をする、自己の哲学に生きた哲学者の滑稽とも不器用とも勇敢ともとれる最後を目撃することができる。政治的謀略において告訴されたこの裁判でも、彼はついぞ自身を曲げることなく、避けることのできた死刑が確定する。これは生き様です。
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- 感想投稿日 : 2007年4月25日
- 読了日 : 2007年4月25日
- 本棚登録日 : 2007年4月25日
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