殺人者たちの王 (創元推理文庫)

  • 東京創元社 (2015年11月12日発売)
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感想 : 39
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ものまね師事件が解決して数カ月、ジャズのもとをニューヨーク市警の刑事が訪れた。


この小説は設定が変わっている。主人公ジャズの父親は、21世紀最悪の連続殺人犯であるビリー。彼に施されたのは殺人者としての英才教育であり、ビリーはジャズを溺愛していた。そして、何より自分を超える殺人者、シリアルキラーになってくれることを望んだ。そんな家庭環境のもと、成長したジャズ。シリアルキラーの片鱗を見せていてもおかしくないのに、ジャズは正しく成長する。この設定の時点で、かなり特質だと思います。


ジャズは正しく成長するといっても、本来人間が備えている恐怖への怯えをしっかりと覚えているという点が、葛藤や苦悩を強調して、ジャズに興味を覚えます。ビリーが息子を溺愛するが、ジャズは父を殺したい程に憎んでいる。しかし、憎んでいるからと言って父を殺してしまうと、彼の望みをかなえてしまう。彼を殺してしまう(殺せる)ということは、ジャズは父の英才教育の素晴らしさを証明してしまうこと、自分にシリアルキラーとしての才能があることを自らで証明してしまうからです。その上、自分は、もう元の生活に戻れなくなってしまう。だから、ジャズは苦悩を続けるのです。例えば、彼女との交際にも常に怯えを感じているほどに。


さらに、ジャズが殺人者ではなく、殺人者を捕まえる側で生きていくというのですから、応援のし甲斐があるというもの。羊たちの沈黙のレスター博士のように殺人者の心理を分析し、犯人を追い詰めるジャズ。「自分もいつか連続殺人者になってしまうのではないか」という恐怖を心に忍ばせながらも、その恐怖を追い出すために、捜査に繰り出すジャズ。


特筆すべきは、ジャズは殺人者を捕まえる側に立っていながらも、殺人者から一目置かれてしまうという威光の強さにも焦点を当てているところ。「殺人者の王の後継」として、殺人者達から特別な扱いを受けてしまったらと思うと、、、。


ジャズのキャラクターとしての魅力と設定が際立つ本作ですが、ミステリとしても「殺人者たちの王」の題名にふさわしいほどの残忍さ。ジャズに協力要請があった時点で、すでに15人の男女が殺されています。被害者達には、シリアルキラーの仕業と思われる常人では理解しがたい犯行声明が残されています。


シリアルキラーの父に育てられ、シリアルキラーの残した犯行声明から犯人を推理する。しかし、その犯人からは王としてあがめられる。がんじがらめの運命の中でももがくジャズ。と、結局、ジャズに私は引っ張られていく。


結論としては、ジャズを応援するために本書を読んだようなものです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外小説
感想投稿日 : 2016年1月3日
読了日 : 2016年1月3日
本棚登録日 : 2016年1月3日

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