「マッキンゼー流 図解の技術 ワークブック」
シリーズ第三弾。


本書は「マッキンゼー流 図解の技術」「マッキンゼー流 図解の技術 プレゼンテーション(だったろうか)」を読んだ上で、手にとるのが適切な手順のようです。


しかし、本書から読んでも十分価値があります。でも、価値があると感じるならば、恐らく基本能力が備わってないからなんだろうとも思います。


書かれていることは、プレゼンテーション(データ)の見せ方についてであるけど、誰も真似出来ないものではなく、私達の先入観(例えば、表より図が見やすい。スライドは少なければ少ない方が良い。グラフの数値は必要など)をちょっと意識すれば良いものです。


恐らく、ここら辺は、仕事の能率や成果を上げる上で大変基礎的は部分だろうから、読む価値はあったなと感じた私は、まだ初心者中の初心者ということになる。猛省。手元に一冊置くのは良いかも。

2013年9月29日

読書状況 読み終わった [2022年1月6日]

「黒猫の三角」
Vシリーズ第1弾。


結局数あるシリーズは完遂なし。難攻不落の森博嗣作品。文体なのかストーリーなのか、はたまたキャラクターの癖や名前なのか、読みづらい時も結局ある。面白くないわけではないんだが、なんだろう。攻略手口が見当たらない。


あるルールの下、繰り返される殺人事件。そのルールに該当してしまった女性から護衛を依頼されるのだが、その女性が殺されてしまう。更に、女性の旦那も何者かに殺害されてしまう訳だが、その謎を解くミステリ。


概要はこんな感じである。タイトルにある猫もkeyなんだろうし、数学の規則性もkeyなんだけど、ミステリそのものに深く関わっていたかと言われるとよく分からない。伏線だろうと思われる所々の文章の方が気になる。個人的には、あっ探偵役はあっちなんだと思わされたから伏線に騙されたのだろう。癖が強いキャラだからてっきり違うもんだと思っていた。


楽しみどころはどこだろう。軽い感じな会話がわりかしテンポよくでたと思いきや、終盤にはがらりと雰囲気が変わるその切り替えだろうか。Vシリーズってどんなテーマなのか掴めてないから、まだなんとも言えないところなので、第2弾次第かな。

2022年1月4日

読書状況 読み終わった [2022年1月4日]
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「透明な螺旋」
シリーズ第10弾。


前作「沈黙のパレード」は2018年10月10日刊行。約3年ぶり。最近その「沈黙のパレード」が単行本が出たり、22年に映画化決まったりしたから、割と年月が経っていたことを感じなかった。第1作から随分経つが、一定のクオリティーを保ち続けていることに驚愕、かつ作者の凄みを感じる。


今回は愛する人を守るのは罪になるのかがテーマ。もしかしたらシリーズ中でも設定済かも知れない。守るもの、守られるもの、だけではなく、その守られるものも、守ってくれた人の“あるもの”を守る。


この後者については、果たしてそう思っての行動だったのか100%言い切れないが、守り守られつつあった。また、愛する人を守るのだが、犯人の最後の言葉を読むと“こうあって欲しい”という願望から、愛する人を守ったのだとも読み取れる気がする。何のこっちゃと思われると思うので、読んでいただければ。


犯人が用いたトリックはトリックという程ではなく、昔ように湯川が華麗に暴くといった展開はない。どんどん人間模様が深くなっており、犯人や容疑者の心理を鋭い洞察力で見抜くといった感じだ。分量としても湯川の登場は多くない。湯川をはじめとした登場人物を如何に見せるか?の深度が無いと読者も飽きると思うが、そうさせないようになっている。


シリーズ最大の謎は、その一つの仕掛けだろうか。正直この伏線が今までのシリーズ中に張られていたか思い出せないが、この謎がこの事件で出てくるとはさっぱりピンとこなかった。湯川も歳を取る訳で、見せる姿もどんどん変わってきている。丸くなったと言う簡単な表現よりもっといい感じの言葉があるはずだが、なんだろう。


変わらない感が出るのは草薙と内海なのだが、この二人は湯川の相棒だから、まだまだ掘り下げされるのは後になるのだろうか。

2021年9月5日

読書状況 読み終わった [2021年9月5日]
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「罪と祈り」
昭和と平成に跨るある事件。


浅草で暮らし、長年にわたり交番勤務の警察官として地域住民に慕われた濱仲辰司の死体が、隅田川に架かる新大橋の橋脚で発見された。当初は事故死と思われたが、検視で側頭部に殴られた痕が見つかり他殺と断定される。子供の頃に父親が自殺し、親代わりのような辰司の影響で警察官になった芦原賢剛は、所轄の刑事として辰司を殺した犯人を追う。一方、息子の亮輔も、父に別の顔があるのではないか?と疑っていたことから父の過去を調べ始める。すると賢剛の父・智士が自殺した頃から、辰司が変わったことが分かってくる。


この中編のキーになっているのはバブル期に横行した地上げである。地価が上昇し暴力的な手段を使った地上げにより、結果的に命を落とす人々が出ていた時代だ。地上げは暴力的ではあるが、暴力は振らない。振らないならば警察は動けない。そんなバブル期の時代を生きた昭和末期のパートが、亮輔と賢剛が辰司が殺された事件を追う現代のパートと絡みつつ進んでいく。


タイトルからすると、なんとなくハッピーエンドではないのだろうと推測される。昭和末期の時代に生きた辰司や賢剛の父・智士だけでなく、小室や江藤、彩織は、時代に飲まれたとか、義憤にかられた(一部は除く)とか、安易だとか色んな解釈が出来るだろう。結局は誰もが皆悪い。悪いのだが、すぱっと断罪も出来にくい。


特定の条件を満たす日にしか実行できないミステリの上に、昭和末期には複雑な時代背景と人間模様が加味され、その過去が現代を生きる亮輔と賢剛を揺らしていく。


簡単に答えが出せるものではないことを亮輔と賢剛の衝突が示している。正義の父や誇らしい父の消せない過去を知った二人だが、対照的な捉え方をするのだ。どちらが正解とも、言えない、分からないから、10年後に会おうとなったのだろうか。父の消せない過去の代わりに得た親友と共に、どんな解答を出すのだろうか。

2021年8月30日

読書状況 読み終わった [2021年8月30日]
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「兇人邸の殺人」
待望のシリーズ第3弾。


「魔眼の匣の殺人」から数ヶ月後。神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と剣崎比留子が突然の依頼で連れて行かれた先は、“生ける廃墟”として人気を博す地方テーマパークだった。園内にそびえる異様な建物「兇人邸」に、比留子たちが追う班目機関の研究成果が隠されているという。深夜、依頼主たちとともに兇人邸に潜入した二人を、“異形の存在”による無慈悲な殺戮が待ち受けていた。


今回は比留子が捜査に参加できない。訳あってクローズな環境にいることになる比留子は、 安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)になるのだが、何故安楽椅子探偵は安楽椅子探偵でなり得るのか?を語る。また、葉村譲は凶人邸に共に乗り込むプロ集団と異形の存在と戦うことで、比留子のワトソンとしての苦悩は表面化する。比留子への想いも混じってる様な気もする。


凶人邸は異形の存在が軸になるが、もう一つのストーリーが並行して語られる。少しでも触れてしまうと、ミステリ好きにはピンときてしまいそうなため割愛するが、これが最後の結末にずしりとくる。


また、クローズドサークルを解決する策は、第1、2シリーズでは見られないものだったように思う。その策の伏線はちゃんとあったので、なるほどなとなるが、あんな風に打開策を使うとは、葉村譲はそりゃあ気づかない。


今回も班目機関の姿は掴めぬまま。だが、終わりの終わりにまさかの人物が登場。次回作には絡んできそうだけど、明智見たくなっちゃうのだろうか。

2021年8月23日

ネタバレ
読書状況 読み終わった [2021年8月8日]
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「六人の嘘つきな大学生」
二転三転。一番危険な奴は。


成長著しいIT企業「スピラリンクス」(以下スピラ)が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというもの。


ここまでは現実世界でもあるだろう課題だ。しかし、ここからは違う。なんと本番直前にお題が変わる。六人の中から一人の内定者を話し合って決めてください。なんという理不尽。しかも理由(裏の理由)がまた納得できないものである。本当に起きたらバッシングの嵐間違いなし。


そして、最終選考では、とんでもない封筒が発見される。仲間だったはずの六人の秘密が入っているという切り札にも爆弾にもなり得るものだ。


理不尽に次ぐ理不尽。さらにいうとこの選考は、スピラがカメラで見てると言う。選考過程は見ずに、後ほど発表で企業が選考するケースは現実にもあるだろうから、その見えない中での争いでも良いはずだが、まさかの実況中継である。普通に止めるレベルだが、後々明かされるスピラの事情も腹落ちせぬ。六人のヤバさもあるが、一番危険なやつはスピラじゃないの?と。


最後にフォローするならば、六人のヤバさは明らかになりつつも、必ずしも100そうではないということ。周りに見せている、それこそ就活で見せている姿が善人であろうと100の善人ではない。それと同時にずる賢かったり、蔑む性格だったり、してもそれが100を占める悪人でもないのだ。


それは腹黒大魔王波多野祥吾にも言えることだ。が、しかしである。犯人は80は悪人なんじゃないの?と。

2021年5月29日

読書状況 読み終わった [2021年5月29日]
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「白鳥とコウモリ」
標題が意味するのは。


▪︎あらすじ
人情味溢れる弁護士が何者かに殺された。自首してきた男は素直に罪を認めるが、辻褄が合わないことが徐々に現れる。この男は本当に真犯人なのか。残された遺族は何故父が殺されたのか納得が出来ない。犯罪者の家族となった息子も父が知る故、何故殺人を犯したのか理解出来ない。被害者の娘と加害者の息子が真実を知るために、事件の真相を探るミステリー。


現代版の罪と罰。同作は東野圭吾の作家生活35周年記念作品。作者自身が「今後の目標は、この作品を超えることです」とコメントするほどの力作である。確かに力の入れようが伝わる。最後まで気が抜けないストーリーであり、随所に伏線が張られていて回収される。


白夜行と手紙に続く作品と銘打たれているが、これらよりミステリー寄り。被害者の娘と加害者の息子が真実を知るために動くのだが、この通りにいかない。途中起きる展開により、彼らの立場に影響があるが、これがミステリー要素を強めている。また、2人は遂に時効済の殺人事件まで遡ることになるが、ここで殺された弁護士と自首した男の関係性が現れる。この人と人の繋がりは、桐原亮司と西本雪穂、武島直貴と剛志に通じるものがある。


最後の締めは好みの問題。個人的には違和感なし。腹落ちしなかったのは、恋愛感情が生まれる辺り。加害者と被害者がどう変わって行くのかがテーマだから落とし所としてはあり得るのだけど、必要かと言われると無くてもよい。何故、恋愛感情が生まれるのか理由がよく分からなかった。


しかしながら、全体的に読み応えあるミステリー。

2021年4月25日

読書状況 読み終わった [2021年4月25日]
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「デルタの羊」
アニメ界を題材にした作品。


著者と言えば社会派小説。今回はアニメーション業界を舞台にした作品である。昨年は鬼滅の刃の劇場アニメ「劇場版『鬼滅の刃』 無限列車編」が公開から2か月あまりで興行収入が324億円を超え、日本映画史上興行収入1位となった。この大ヒットのきっかけの一つが、クオリティの高いアニメシリーズ。制作したのはufotableというアニメーションスタジオである。ufotableでの製作現場も、表に見えないだけでめちゃくちゃ大変に違いない。


「デルタの羊」はufotableがいるアニメ業界の中身を描いている。もちろん小説なのでフィクションなのだが、描かれる問題(アニメ作りの現場を揺るがす配信サービスの台頭やチャイナリスク、やりがい搾取など)はフィクションではないだろう。


物語の軸は「アルカディアの翼」である。ソフトメーカー東洋館に勤めるプロデューサーの渡瀬智哉は、中学1年の時に読んだファンタジー作品「アルカディアの翼」をいつかアニメ化したいと心に決め、3年かけて原作者を口説いてようやくアニメ化の許可を取り付けた。しかし、そこから製作現場を襲うチャイナショック、クリエイター離反、声優の不祥事。念願の夢に危機が訪れる。


一方、警官上がりのアニメータ六月は、アニメ業界のある出来事をアニメ化する仕事を請け負う。アニメータは義理堅い。この人の作品ならば、この神アニメータと仕事が出来るならばやりたいと言うのがアニメータだ。その仕事はトータル・レポート。「アルカディアの翼」のアニメ化プロジェクトを題材にしたノンフィクションアニメだ。


果たしてアニメータとしてこの仕事はやるべきなのか。仲間の為にやりたい気持ちとプロとしてやるべきではないと悩む六月。しかし、六月の職場にもチャイナショックが襲う。


チャイナショックはどでかいのだが、やはりアニメ業界は大変だなと痛感する。背景を一つ書き上げるのに何時間もかける。一工程にはさらに細かい工程があり、それをぎりぎりの人材でやる。作画のデジタル化の話も出てくる。紙で書き上げ、かつ在宅であると作業進行管理者がアニメータの家を車で回り、原稿を回収しなくてはならないのだ。そこに人材不足が重なり、ストレスも溜まり、かつサラリーだって高いわけではない。そんな中ある事件が起きてしまう。根本的な改革が必要だろう。


逆転要素と書いたが、これは見事な逆転劇。「アルカディアの翼」が繋いだ二人の縁が綺麗に着地。アニメファンはもちろん、著者ファンも必読な一冊。

2021年1月2日

読書状況 読み終わった [2021年1月2日]
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「ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人」
元マジシャンの探偵物。


田舎町で起きた殺人事件。生徒から慕われて、定年後静かに暮らしていたはずの元教師の父に何があったのか。娘の神尾真世と父の弟・神尾武史と共に事件の真相を探る。


教師の娘として難しい思春期を過ごしていた真世。結婚を控えていた頃に父を失うことになる。父との思い出や繋がりが隠された人情物かと思いきやそうではない。序盤に登場するマジシャンの立ち回りや雰囲気から本格的ミステリーかと思いきや、そうでもない。また、あるアニメを駆使した町おこしも一つのピースになっている。名もなき町のタイトルから、ここに捻りがあるかと思ったがそうでは無い。


結局、何故武史はマジシャンを辞めて、アメリカから帰ってきたのか分からず、真世に送られてくる怪しいメイルも最後まで分からない。種明かしはしない。つまりは掴み所が無い。期待値を上げすぎずにサクッと読めるミステリーである。新しいシリーズものになるか否かの布石の作品だろうか。


とにかく武史が、真世、容疑者達、警察を欺く(といってもド派手なものではない)。一見いけ好かない叔父かと思いきや(全然兄の死を悲しんでない)、ちょっとニヒルな元マジシャンだったのだ。

2020年12月31日

読書状況 読み終わった [2020年12月31日]
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「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」
元祖人見知り芸人。


個人的には第二のオードリーブームがメディアに到来中と思っている。とは言え、第一次から途切ることない人気ぶりからすると常に右肩上がりに見える。文才が注目され出したのは、一次の終わりだったろうか。小説ではないが、エッセイはとても面白い。


「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」は、標題の野良犬が登場するキューバの一人旅に加えて、モンゴルとアイスランド旅が収録されている。一人旅は、行こうにも行けない自分からすると、凄いことだ。そんな旅の中でここまで話を生み出すとは、流石の若林正恭である。ラップも上手いが、文も上手い。


一人旅では、ツアーに参加したり、ガイドをしてもらったりしている。他人がいるのだから、人見知りが発生している。キューバのガイドとチップをきっかけに盛り上がる話も良い。アイスランドのディナーの話は、一般人からしたら若林正恭と飯を食えて話せるなんてラッキーの何ものでもないが、スター人見知りは会話に入り込むのに苦労している。彼も人間なんだなと。


お笑い的な要素もあるが、キューバからの帰りで描かれる家族への想いや自分が家族を持ちたいと考えるところは、非常に印象深い。こんな想いがあったから、結婚したんだろうなと。


キューバ、モンゴル、アイスランドどれもなかなか勇気がいるが、いつか行く場合は、本書を持って各地を巡ってみたい。

2020年11月21日

読書状況 読み終わった [2020年11月21日]
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「半沢直樹 アルルカンと道化師」
半沢直樹の大阪時代。


半沢直樹シリーズの第5作目。時系列的にはシリーズ第1作『オレたちバブル入行組』の前日譚にあたる。半沢が東京中央銀行大阪西支店へ赴任して間もない頃に起こった美術出版社の買収案件に端を発する物語である。


ドラマは見逃しているが、原作はシリーズ読み落とし無く今に至る。5作の中では、結構なお気に入りだ。というのも、勧善懲悪とミステリーの割合がちょうど良い。勧善懲悪とミステリーがいい塩梅になっている。


今までは悪玉を叩きのめす際は、銀行マンとしての人脈や仲間の助け、そして半沢直樹の頭のキレで叩きのめしてきた。しかし、今回はアルルカンの謎を解き、敵の悪業の証拠を見つけ出し、画家とその友人との友情を守る。それでいて、半沢直樹の銀行マンの矜持も光り、悪玉のクソっぷりに苛立ちを覚える。汚い悪は銀行マンとして見事に叩き伏せ、それでいて探偵の如く謎を解明する。勧善懲悪に偏りすぎずで、実に良かった。


それにしても、いつ見ても半沢直樹の敵である奴らは腹立たしい。悪玉銀行マンはきっとこんなクソっぷりなのだろう。勧善懲悪ものはスカッとするのだが、こんな悪玉はきっと現代にもいるわけで、それはさすがに半沢直樹は対処できない。由々しき事態である。

2020年10月4日

読書状況 読み終わった [2020年10月4日]
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「東野圭吾公式ガイド 作家生活35周年ver.」
35周年。


東野圭吾作家生活35周年、95タイトル。一つ一つの作品に東野圭吾解説が付いている。当時何を考えて書いたか、実は設定が変わったのだとか、分岐点になった作品だとか、読者は当然知り得ぬことで面白い。


東野圭吾と言えば、昔は売れなかった、と枕詞がつく紹介が多いが、その時の苦労がしっかり書かれている。思うのは、当時の実力は関係あるのだろうが、何を売りたいか?という編集側や、何が売れているか?という文壇•社会の影響は、思っている以上に大きいんだろうということ。


何を書きたいという意思やこれは面白いだろうと作家側が考えても、第三者からすれば、いやいやその前に、売れてるのは恋愛ものだとか、売りたいのは本格派ミステリだとか、言うのだ。つくづく作家で生計を立てるのは大変なのだ。(いや、我々会社員も大変なのよ)


本書の活用としては、そんな背景を踏まえつつ、東野圭吾は自信を持って当時は出したが、売れなかった本を制覇すると言うシーンが思い浮かぶ。若い頃だけではなく、売れ出した頃まで、当人からすればもっと売れるべきた!と言う作品が沢山ある。読者としては、そこをカバーするのも楽しみの一つになる。


また、p207以降は、なかなか読めないという点で、おススメ。加賀シリーズ、ガリレオシリーズ、マスカレード、ロングインタビューが読める。そこには、ここまで長く書き続けられる理由や、売れなかった過去から大切にしてること、やっぱ東野圭吾は素晴らしいなとなる。これからも読み続けるのは、必須である。

2020年9月13日

読書状況 読み終わった [2020年9月13日]
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「人間」
花火、劇場では、二十代の挫折を書いた。だから、今回は挫折のその後を書きたかった。それが「人間」である。


★あらすじ★
絵や文章での表現を志してきた永山は、38歳の誕生日、古い知人からメールを受け取る。若かりし頃「ハウス」と呼ばれる共同住居でともに暮らした仲野が、ある騒動の渦中にいるという。


永山の脳裡に、ハウスで芸術家志望の男女と創作や議論に明け暮れた日々が甦る。当時、彼らとの作品展にも参加。そこでの永山の作品が編集者の目にとまり、手を加えて出版に至ったこともあった。一方で、ハウスの住人たちとはわだかまりが生じ、ある事件が起こった。忘れかけていた苦い過去と向き合っていく永山だったが。


永山は、漫画であり、芸人ではない。最初は又吉を投影しているのは永山だと思っていた。しかし、実は別の人物じゃないか?と後で気付く訳だが、それはある教授が又吉に対して放ったエピソードがほぼそのままで登場したから気付いた訳だが、永山は表現者として苦悩を抱えているように見える。


最初は表現者ならばこれくらいのこだわりがあるのは分かるな、と落ち着く。しかし、徐々にこだわりが強くなる。次第に永山はおかしいのではないか?となっていく。でも、苦悩を抱えていながらも、生き抜こうと決意する永山には嫌悪感を感じない。


前述した通り、立ち位置は別の人物にお笑いを任せている。しかし、又吉がお笑いとして苦悩しながらも前に進む姿は永山に託したに違いないのではないか。人は、苦悩しないことは無い。苦悩しながらも、踠いても前に少しずつ進もうとする、その時、ふと皮が剥ける時がある。その剥ける時が、父とのエピソードは非常に心地が良い。


確かに、挫折後の姿を描いてるなと思った。


しかし、著名者(西さんは当然。だって西さんだもの。)、上手いこと要諦を抑える。こんなん無理。


岸政彦(社会学者)
人間は、愚かだ、け、ど、生きているんじゃなくて、愚かだ、か、ら、生きている。
又吉さんは、人間の愚かさを信じているんだと思う。そして、愛しているんだと思う。
西加奈子(小説家)
今後の又吉文学にとっての、重要な萌芽がいくつもある。そのすべてが美しい。

2020年7月24日

読書状況 読み終わった [2020年7月24日]
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「人間に向いてない」
第57回メフィスト賞を満場一致で受賞。


メフィスト賞に並び、第16回本屋大賞レース健闘作品。第2回未来屋小説大賞受賞作品である。メフィスト受賞作品は、癖が強い作風が多いイメージがある。大衆的な作風が好まれ勝ちに見える二作とは土俵が違うはずだ。しかし、土俵跨ぎで評価を受けたわけだ。


母美晴は、ある日息子の優一の部屋にいたそれを見た。体と比べてわりあい大きな丸い頭部。側面には複眼があり、蟻のように頑丈そうな顎。芋虫に似ている。優一はそれになっていた。世の中は、異形性変異症候群にかかる若者が急増している。ある者は、犬のように変わり果て、ある者は植物に、またある者は魚形の異形に。人を人に非ずな姿に変えるこの奇怪な病に、優一はかかってしまったのだ。


美晴は、虫のようになった優一と共に暮らし始める。そして、同じ状況に陥った人達が集まる会に参加する。次第に異形性変異症候群と言う病に向き合い出す美晴。しかし、自分とは反対に離れていく夫。


自分は優一をこのまま育てられるのか。夫が言うことは正しいのか。異形性変異症候群とは一体なんなのか。様々なことが駆け巡る中、美晴は何を思うのか。最後には、異形性変異症候群が、若者だけでなく、全ての年代に広がっていくのは、誰しも何かに見られ、苦悩していると言うことを暗示している。

2020年6月30日

読書状況 読み終わった [2020年6月30日]

「クスノキの番人」
その番人を任された青年とクスノキのもとへ祈念に訪れる人々の織りなす物語。


クスノキを巡るファンタジーと言うべきか、ミステリーと言うべきか。


不当な理由で職場を解雇され、その腹いせに罪を犯し逮捕されてしまう。このまま送検、起訴されるところを伯母である千舟によって釈放される。その代わりに課せられたものが、クスノキの番人になること。そこから玲斗とクスノキの物語が始まる。


主人公は玲斗である。あまり褒められた生き方をせず、将来の展望もないと言う玲斗には、不倫の子であることから卑屈になり、投げやりになっている節がある。そんな玲斗が、千舟やクスノキに会いに来る人々と関わるにつれ、自分の在り方を見つめ直し、最後には見違える程になる。


玲斗は主人公だが、やはりクスノキに祈念(本当は違うのだが)する人々も主人公だ。クスノキの祈念には謎が多く、見習いとしてやらされている玲斗は、何が何だかさっぱり分からない。その謎を解こうとして、人々の祈念に足を突っ込む訳だが、それが玲斗にとって大きな転機になる。


その祈念は二つ。一つは疎遠になっていた兄の預念を受け取りに来る弟とその家族の物語。こちらは感動的だ。もう一つは、大企業の跡取り息子として指名された長男の苦悩の末の決意だ。こちらは、玲斗と近い境遇の話であり、血は関係ないんだと思わせるストーリー。


どちらも通じて、念、想いの大切さが詰まっている。特に前者は、兄の苦悩や懺悔や感謝が詰まった預念を音楽で現し、それを受け取るシーンは良かった。前者だけでも十分だが、二つ組み込まれることで玲斗のクスノキの番人としての成長を垣間見える形になっている。


そして、千舟との最後の展開。クスノキの番人ではなく、一人の青年として玲斗が大きくなり、最後には千舟を待つ身となる。最後に見る玲斗は、もう見違えてしまう。久々に東野圭吾作品で、清々しい成長ストーリーを読んだ気がする。

2020年5月6日

読書状況 読み終わった [2020年5月6日]
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「逆ソクラテス」
伊坂幸太郎史上、最高の読後感。デビュー20年目の真っ向勝負!


無上の短編5編(書き下ろし3編を含む)を収録。収録作は「逆ソクラテス」「スロウではない」「非オプティマス」「アンスポーツマンライク」「逆ワシントン」。


敵は先入観。世界をひっくり返せ!である。誰しも持つ先入観を小学生達が、あの手この手で覆してみせる。悪人も出てくるが、主人公達と恩師の掛け合いが軸なストーリーが多く、5編全体を通して穏やかな作品である。


「逆ソクラテス」は2度目なのだけど、小学生にとっては絶対的な存在である教師の先入観をひっくり返そうとする様は痛快。昔に比べて今はとか言われるだろうが、今に比べて昔はと言われる面もあり、いつの時代も逆ソクラテスは存在するだろう。人は考える葦でなければならない。


印象深いのは「スロウではない」である。伊坂幸太郎の作品でこのようなタイプはあんまり読んだことがない。志向としては含まれてないんだろうなと思っていた。その点で推しである。


書き下ろしに関しては、らしさを感じさせる。既視感ある展開であれ、それが心地よくなってくるように仕上げてきたらそれは作者の勝ちだと思っているのだけど、一本勝ちである。「逆ワシントン」で纏める辺りも、ファンからしたら皆好きな締めかなと。


因みに、磯憲と言う教師が度々登場する。伊坂幸太郎の小学生時代の担任の先生がモデルらしい。凄い良いこと言ってるのよ、磯憲。セリフは当然違うだろうけど、その先生は短編のモデルになったエピソードでは、モデルになるような話をしたに違いない。そう思うと今回の作品の生みの親はその先生であったりもする。


さて、デビュー20年おめでとうございます。また新作待ってます。読みたくなるのよね、これが。

2020年5月5日

読書状況 読み終わった [2020年5月5日]

「medium 霊媒探偵城塚翡翠」
帯で大絶賛されている本作。


推理作家として難事件を解決してきた香月史郎は、心に傷を負った女性、城塚翡翠と出逢う。彼女は霊媒であり、死者の言葉を伝えることができる。しかし、そこに証拠能力はない。二人は香月の後輩の事件を期に、バディを組んで事件を解決していく。


ずばり、バディものである。香月は論理の力。翡翠は霊視能力。二人の力を組み合わせながら、事件に立ち向かっていく。香月はホームズで翡翠がワトソン。ワトソンは可愛くて、ホームズは気優しく女子にモテる。二人ともキャラが立っている。悲惨な事件が多いが、二人が次第に接近するラブロマンスもある。


だが、これだけで終わらずにミステリーとして締めている辺りに高い評価が集まっているのだろう。いくらなんでも大絶賛し過ぎでは?と思ったりもしたのだが、やはりこのように綺麗に読者を裏切るのは、かなり難易度が高いということだろうか。


ちらほら出てくるある事件は伏線と言うほどか?と言う気がする。むしろ翡翠そのものが伏線なのか?と思いながら読んで貰えれば。最後の終幕を見ると、ああロマンスは残っていたのかと切なくなる。

2020年4月2日

読書状況 読み終わった [2020年4月2日]
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「革命のファンファーレ 現代のお金と広告」
芸人か、文化人か、絵本作家か、何なんか。


西野如きが、とちらりと頭をよぎった人こそ、あれ、西野ってちゃんとしてんのね、と思うこと請け合い。


お笑い芸人西野を見たのはとうの昔。ゴットタンで、ひとりのよくわからないむちゃぶりを全身全霊で受け止めるあの姿振り切った姿をみて、芸人西野はまだ居るのだと思い出す。しかし、芸人西野と言う見方がどうやら違うらしい。松本人志の言う芸人と西野の考える芸人が違うのだ。


本書は、えんとつ町のプペルの広告戦略について、語っている。べースはプペルなんだが、そこに留まらずに、多くの話に広がっていく。認知力と人気力であったり、信頼力であったり。最後に伝えるのは努力である。


プペルを全篇無料開放してから売ってみるというのは、突拍子も無いやり方に見えて、一般家庭の母の絵本を買う傾向を加味して、やってみようと行動に移したのは、ビジネスマンとして見所が良かったということ。本のしおりを付けたものに対する付加価値に着目して、これを売る仕掛けを作ろうとしたのも付け所が良い。


本気でディズニーを倒すと言って、叩かれていた記憶があるが、割と本気でやろうとしている。行動にいるのは勇気じゃなくて、情報らしい。それと努力と信頼が置ける仲間。


これから色々やるんだろうな、西野さん。

2020年3月1日

読書状況 読み終わった [2020年3月1日]
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「彼女がエスパーだったころ」
SFだろうか。違うか。


<blockquote>進化を、科学を、未来を――人間を疑え!百匹目の猿、エスパー、オーギトミー、代替医療……人類の叡智=科学では捉えきれない「超常現象」を通して、人間は「再発見」された――</blockquote>


題名をどこかで見た記憶があったから借りてみた。全体的にはSFだろうけど、医学や進化や科学や未来を扱っていて、一口にSFとは言えないものばかり。


「百匹目の火神」は、種の進化がテーマであり、「彼女がエスパーだったころ」はSFかと思いきやミステリーであったり(千晴はエスパーか否かの疑問を残しながらも)、「ムイシュキンの脳髄」はオーギトミーを題材にしたミステリーだ。


ミステリー要素が強めなものに比べて「水神計画」「薄ければ薄いほど」「佛点」は宗教性が強めな作風。特に、「佛点」では一定の境目を押し出すことで社会は動き出すという、過去の歴史上に起きていたかもしれない部分が描かれていて、フィクションに感じない。どれも一癖あり。一番癖強いのは「百匹目の火神」。他のは、映像化され易そうだ。

2020年2月24日

読書状況 読み終わった [2020年2月24日]
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「タダイマトビラ」
これは難しいことを。


恵奈の母親は母性に倦んでいた。家のことは作業として淡々とこなすだけ、恵奈と弟の啓太に愛情を注ぐことはない。そんな母親を避けるように父親は意図的に家に居なくなり、啓太は、より母親の愛情を求め、そして、失望していく。そして、恵奈は「カゾクヨナニー」という密やかな行為で、抑えきれない「家族欲」を解消する。


恵奈は、高校に入り、家を逃れて恋人と同棲を始めたが、お互いを家族欲の対象に貶め合う生活に恵奈は気づいてしまう。この時の恵奈が受けた衝撃はとんでもないものだっただろう。恋人が恵奈に求めていたものは啓太が母に求めていたそれであり、そんな啓太を恵奈は鬱陶しがっていたわけだから。恋人との関係は啓太との関係よりある種濃いのだから、受けたインパクトはとてつもない。


テーマは家族。人が帰る所は本当に家族であるのかを現実的に幻想的に、そしてホラーチックに書き上げているのは、流石と感じる。ただ単に現実的に書くだけでなく、現実的だからこその怖さがあったり、理想的な家族との乖離を幻想的な手段で終結させたり、一般的な家族がテーマの小説とは違う。蟻を潰す辺りはホラーなんだけど、結局この行為が、家族とは何かに対しての解になっていて、扉に続いていく。ここのくだりは印象的。


また、個人的には表現の仕方が凄いなと。ニナオとのカゾクヨナニーという表現によって、一気に「ああ、これは普通の家族ものじゃないな」と。オナニーという性欲解消を家族に対する欲の解消という観点で表現し直すのは凄い。


村田沙耶香とは、王道になりがちなテーマを変わり種にしちゃうな、と改めて感じた一冊。

2020年2月24日

読書状況 読み終わった [2020年2月24日]

「蟻たちの矜持」
現代版忠臣蔵。


恩ある社長を貶めて会社を乗っ取ろうとする悪役を社員達が結託することで、ある計画を立て、社長と会社を救済するストーリー。現代版忠臣蔵(紹介では令和忠臣蔵)である。忠臣蔵は有名だが、果たして今言われているようなイメージ(主人のために仇を討つのがカッコいい)を持つべきか否か?みたいな記事を見たが、恐らく出版社のキャッチコピー主は、忠臣蔵=主人ために!で、したためたに違いない。


医療精密機器製造会社アカベックは、独特の経営方針で社員からの愛社精神が厚い優良企業。ある日、アカベックの若き二代目社長・内野匠也は、ライバル会社社長の陰湿な手口により、暴力団との密会をねつ造され、海外で身に覚えのない覚醒剤所持で逮捕されてしまう。罠に嵌められた社長を救うため、乗っ取られた会社を取り戻すため。四十七人の社員が驚愕の計画を企てる。


忠臣蔵をモチーフにしているような紹介文があった故に、尚更オーソドッグスな展開に感じた。しかし、序盤から甘すぎる展開だった。


アカベックはライバル企業2社とジョイントベンチャーの形でビジネスを海外に仕掛けようと言われる。しかし、アカベックの営業達は乗る気ではない。提案してきた企業は、決してよい評判があるわけではないのだ。利益は出すが、やり方があくどい大企業であり、故に社員の半数はこのジョイントベンチャーに乗るのを反対していたのだ。


しかし、最終的にはこの話に乗ってしまうのだが、忠臣蔵の流れに乗せるにしても、こんなヤバ目な企業と組むことがきっかけと言うのは、脇甘めな気がしてしまった。忠臣蔵みたいな展開に行く感が前面に出ていて、もう展開が見えてしまった感があったのは事実。


中盤からの社員達の働きは、スパイのごとくやり遂げる。現代版忠臣蔵では、機械に精通していなければやり遂げられないのだ。

2020年2月16日

読書状況 読み終わった [2020年2月16日]
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「鳩の撃退法(上)」
長いぜ。


鳩の撃退法とは、凡そミステリーらしからぬ題名であり、中身もなかなかややこしい。作者は小説巧者らしいから、これが普通なのだろうか。


主人公は、幸地かと思いきや、彼と会話を交わす場面で現れた津田伸一であった。昔直木賞を取った程の小説家と噂されるデリヘルドライバーで、日雇い生活と女の懇ろ生活を送っている。ダメな男感を漂わせるが、知り合いの老人が彼に膨大な現金を遺産として残すことから始まる。


この現金の内、一枚使ったところ、それが偽札と判明するのだ。それに気づいた怪しい人物が津田の周りに出没するようになる。


これだけで、何故老人は津田にこんな大金を残したのか。何故偽札が交じっていたのか。全てが偽札なのか、だとしたら老人は何者か。怪しい人物は何が目的なのかと謎が次々と出て来る。


さらに、デルヘリ嬢と郵便局員の失踪、幸地一家の神隠しが加わる。謎ばかりである。この二つについては、津田自身が小説を書くスタイルで徐々に語られていく。ここでは、更に登場人物が増える。


また、小説内の時系列と偽札事件が発生した津田自身の時系列(こんなアップアップしそうな中、よくぞ小説を書けるなあ)が、入れ替わりで語られていくため、注意深く読まないとどっちか分からなくなる。どちらも舞台となっている街の描写がちゃんと描かれているから、リンクしているのはわかるが、気を抜いたら、あれ?これさっき読んだなとなってしまい、前に戻ったら時系列前だったりする。


この津田主観の謎がばりばり詰まってそうな小説の世界と津田が一登場人物で巻き込まれている世界の謎が、綺麗に後半で解けてくれたら良い。


因みに、いまのところ、欠端と言い晴山と言いちょい役と思っていた人物が、幸地一家に深く関わっていたと判明するが、あくまで津田が書き手のスタイルを取っているだけに、そのままそっくり鵜呑みにできないとも思っている。つまりは、これは仕掛けじゃないか?ということである。結構、津田も怪しいなと思われる所もあるのだ。


後半ですっきり謎が解けて欲しい。

2020年2月12日

読書状況 読み終わった [2020年2月12日]
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「紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人」
第18回「このミステリーがすごい! 大賞」。


このミスシリーズは、個人的にはまらないことが多いが、本作はハマり作品であった。本大賞創設の意図は、面白い作品・新しい才能を発掘・育成する新しいシステムを構築することにある、とのことだ。その意図を満たしたミステリーだからこそ大賞を取った訳だが、確かに納得である。


一言で言えば、マニアックな領域の薀蓄を巧みにミステリーに落とし込んだ作品。と、まあ、このミスHPに書いてあるのだけど、まさにその通りである。マニアな領域に留まらず(読者置いてけぼり状態にならない)、ちゃんとミステリーになっていて、しかも謎の肝にマニアックさが活かされている点が秀逸だなと思う。また、キャラクターの良さと終盤に向けての終わり方もキャッチーで良い。


まず、マニアックさであるが、二つある。一つは紙(製紙)であり、一つはプラモデル。メイン主人公である渡部が紙鑑定士であり、相棒・土生井がモデラーだ。


よりマイノリティは紙鑑定士であり、紙を触っただけでどこのもので、材質までを把握する。一方で、モデラーも負けていない。伝説のプラモデル造形師として登場する土生井であるが、テリトリーは幅広く、ディオラマやミニチュアハウスをカバーする。実に知識と洞察眼を備えたユーモラスなキャラクターだ。実質サブ扱いだが、完全に前半は探偵、後半は安楽椅子探偵であり、最後は良いオチまでGETする等、完全に主役である。


二点目のキャラクターと展開だが、渡部は土生井に推理力こそ劣るが、なんだろう、やってやれ感や元彼女とのやりとり(大抵こういう場合の女性はハイスペック)を含めて、応援したくなる人物である。また、終盤に関しては、ミステリーの佳境具合に加えた渡部と土生井それぞれの役得ラブリーな展開も含めて、綺麗に終わっている。


最後に一点目に戻るが、ミステリーへの落とし具合。これが一番のストロングポイント。マニアックな要素をよく落とし込んだなと感心してしまった。

2020年2月3日

読書状況 読み終わった [2020年2月3日]
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「百舌落とし」
遂に。


スタートから33年と言う途方も無い歳月の末、遂に完結である。キャラクター達の周りでも色々な事件が起こり、色々な変化があった。主役と思われた倉木が早々に卒業し、悪主役の百舌一代目も居なくなり、悪玉菌達も目星しいものが脱落。あとは、美希と大杉の関係性が変わったのには、驚いたものだ。


そんなメンバーももはや美希と大杉と残間くらいしか残っていない。しかし、百舌だけは何度も蘇る。これ見よがしに復活の予感を漂わせる。そもそも百舌は通称だから、百舌模倣犯が出てくるのはあり得るから、まあ死なないのも分かるんだが、やはり初代百舌が強すぎて、匂わし感だけが漂ってきてしまうと思ってしまう。


百舌以外の面でメインを張るものがあれば良いのだが、結局は百舌が一番な訳で、百舌の謎がどう解けるか?が関心事になってしまう。となると、個人的には今回のクローズは消化不良というか、やはりこうなるかと言う感じだった。


百舌はまだまだ蘇りたがりみたいだから、新シリーズが始まってもおかしくないが、百舌シリーズは第3作あたりまでがピークだったなと改めて感じた。とは言え、私も百舌シリーズを卒業するタイミングである。後は美希に託して。

2020年1月19日

読書状況 読み終わった [2020年1月19日]
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