「イレーナの帰還」
生きたいと願った死刑囚の少女、第2章。
☆あらすじ☆
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死刑宣告を受けながらも生き延びたイレーナは、故郷シティアに14年ぶりに戻ってきた。両親は涙ながらに娘を迎えるも、兄を始めとする他の者たちは、敵対国で育ったイレーナをあからさまに嫌悪し、密偵に違いないと疑う。またも四面楚歌となったイレーナに、さらなる危機と試練が。
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異世界ファンタジーというと、甘くロマンティックで、幻想的なイメージがありますが、このシリーズの特徴は、クールでドライ、かつハードでさえある点と訳者宮崎真紀さんは言います。確かにその通り。
イクシアとシティアの関係性から生まれる軋轢だけではなく、各々の国における情勢や政治やらをドライでハードに描き切っているし、頻繁に発生する戦闘シーンは、ちょっと残酷でもある。クールという点は、ヴァレクを始めとするイレーナと敵対していた人物たちが徐々に彼女と親交を深めていくシーンでも随所に登場するし、アーリとジェンコの台詞の多くがクールなものです。
もちろん、ロマンティックと幻想的なイメージもちゃんと持ってます。魔法が個々の登場人物の初期設定であり、戦闘はもちろん馬と会話ができるなど、ファンタジー要素を生かした仕掛けもあります。で、ロマンティックなところ。ここは、海外小説ではよく見られるこちらが恥ずかしくなるシーンが多いですね。
いつも思うのですが、海外小説で恋愛模様を含めるものの場合、結構すぐいちゃいちゃ関係になるケースが多いような気がします。第1巻を読んでもらえるとわかるのですが、死刑にされる予定であったイレーナに対して毒味師の役割を与える事で生かしたヴァレクが、徐々にイレーナに惹かれていくのですが、そこがそこまで深く描かれていないような。イレーナは強固に拒みつつ、しかしゆっくりと信頼関係を築き始めて(それも最初は恋愛ではなく)行く過程が描かれているのですが、ヴァレクは一気に火がついちゃう感じですw
こういう展開、結構海外小説だと多いような気がするんですよねー。今回、ヴァレクは中盤から登場するのですが、かなり熱々に描かれており、そんなこと言っちゃうの!?ってことも平気で言っちゃいます。
「イレーナの帰還」でのテーマは、ヴァレクのロマンティックすぎる台詞ではなく、”家族”です。イレーナが行方不明になって以来ほとんど崩壊寸前だった家族がどう再生するか。特に自責の念からイレーナを恨みさえするようになっていた兄リーフは、イレーナとの間に大きな溝を抱えています。そんな二人の関係がどう修復されるのか。それが大きなテーマですね。
自責の念から恨み、怒り、それと同時にイレーナに再会したことや彼女が傷つくことで心に抱かれる”ほっとした気持ち”と”相手への怒り”。そんな相反する想いがどう消化されていくのか。そこが上手く描かれているのかなーと思いました。
物語は、シティアに残る決断をとり、イクシアとシティアの懸け橋になるべく動き出すイレーナ。その道は、イレーナ(とヴァレク)の命を狙う奴らがいる中で、非常に困難な道。彼女は結び目やもつれや落とし穴が満載の、曲がりくねった長い道のよう。しかし、彼女は思う。
<blockquote>まさに、わたし好みだ。</blockquote>
常に前を向き突き進むイレーナらしい言葉である。
- 感想投稿日 : 2016年9月18日
- 読了日 : 2016年9月18日
- 本棚登録日 : 2016年9月18日
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