またの名をグレイス(上) (岩波現代文庫)

  • 岩波書店 (2018年9月15日発売)
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本棚登録 : 171
感想 : 9
5

『侍女の物語』が1985年。『またの名をグレイス』が1996年。読んでいて思うのは、この2冊はステージを変えた変奏曲だ、ということだ。前者は架空の国(未来のアメリカではあるけれど)が舞台のディストピア文学で、後者は実際の事件に題材をとった歴史文学だという違いはあるけれど、どちらも主人公は侍女で、様々な階層の様々な立場の男たちに都合よく使いまわされる立場に置かれているところが同じ。キリスト教社会にベットリ張り付くミソジニーを、アトウッドは決して見逃さない、そして容赦しない。「女である」ことの罪によって、16歳の少女を、30年も牢獄に閉じ込め、狂人のレッテルを貼り、観察対象としてモノ化することを強いた自国の過去を読み手に突きつける。
ただ、こう書いていながら、作品の魅力はそこじゃないなぁ、とも思ってしまう。とにかく美しいとしか言いようのない描写がずーっと続くので、時間を忘れて読み耽ってしまう。特に後半、グレイスの過去語りのシーンが本当に美しくて、ぐいぐい引き込まれる。彼女が語る生活の一コマ一コマが、いわゆる「古き良き」暮らしぶりそのもので、まるでターシャ・テューダーの絵本を読んでいるよう。一番は、バター作りのシーン。足で踏んでペダルを回す機械でミルクを攪拌しながら手は裁縫をし、出来たバターには塩を混ぜ、家紋入りの容器に入れて固めて地下室に置き、バターミルクはとっておいてビスケットを作り…なんていうのを読んでいると、これがゾッとするような展開が待つミステリーで、がっつり重い告発小説だというのを忘れてしまう。そして朝焼けのシーンの何とも風情のあること!ここだけでも読む価値があると思う。
そして、キルト!!キルトが気になるーーー!!!章ごとのタイトルがキルトの模様の名前なのは後半で分かるんだけど、そしてそれらが繋がると大きな絵(つまり、種明かし)になるという仕掛けなのだろうけれど、じゃあどういう絵になるのよーーー????気になるので、まずは下巻をポチる。 

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年7月2日
読了日 : 2022年7月2日
本棚登録日 : 2021年2月3日

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