春琴抄 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1951年2月2日発売)
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春琴抄

九つの時に失明した美貌の三味線弾き・春琴。裕福な彼女の家に丁稚に来た4つ年上の佐助との不気味でいて美しくさえある関係性を描く。
最初めちゃくちゃ読みにくいけど、慣れるので少し辛抱して読み進めるべし。

彼らの主観ではなく主に「春琴伝」なる伝記を読み解くことで物語は進む。その第三者の視点というのが読者と彼らの間に絶妙な距離感をもたらし、肝心なところが謎のままだったりする。物語のクライマックスは最高の幸福感だが、過度に盛り上げず呆気なく終わるのが逆に良い。

◉春琴の世話がめちゃくちゃ大変
傲慢で気性の荒い春琴と、献身的に奉仕する佐助。
春琴の着替え・食事・入浴・排泄など生活の全てに手助けが必要な上、細かな注文が山ほどつく。彼女の介助はとてつもないストレスなのだ。
彼女のSっ気を佐助は気心知れた仲の証と捉えて、ワガママもどんどん受け入れる。そのため幼少期から2人は、お互いがなくてはならない存在になる。
2人の間で侍従と恋愛の境界が極めて曖昧なまま、佐助は春琴の介助のプロフェッショナルになっていく。

◉本人たち無自覚のエロ
かの有名な佐助の虫歯のくだり。
寝床で春琴が足を温めよという。胸板に足を入れて温めていたが、虫歯が痛すぎて冷たい春琴の足で頬を冷やしていたら足蹴にされたというやつ。
…いやいや、佐助の胸板で足あっためんなや!虫歯どうこうの前に、そっちが気になりすぎて話入って来んわ!

彼らの生活にはこういう行き過ぎた侍従関係の風景があり過ぎるのだろうが、本人達はそれが普通なので無自覚。
しかし周りから見ている分にはその無自覚がそこはかとなくエロく見えてしまう。
私達の見えないところで2人はどんな生活をしているのだろう…見えない分、余計に想像力を掻き立てる。
そして春琴が妊娠し、本人は最後まで父親を明かさなかったが生まれた男の子が佐助そっくりであったことから
「あんたたち結局やることやってんじゃねーか!」と周囲をズッコケさせることになる。

◉災禍が招いたこの世の極楽
ひたすら春琴武勇伝を淡々と語っていたが、ある春琴の身に降りかかった災難をきっかけに、驚くべき展開になっていく。
佐助の愛の深さに身の毛のよだつ思いがするものの、春琴と佐助の関係はもうエロさえ超越し、神々しささえ感じるフェーズに突入。
佐助にとっては春琴とたった2人きりの極楽を生きているようだったという。

読了した後で冒頭の2人の墓の描写を改めて読み直すと、心の底からしみじみと感慨深い。墓になってもなお、春琴の側にひっそりと佇む佐助の生涯を想う。
こんな複雑で美しいエロもあったんだ、と新しい世界を発見してしまった感じ…

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年2月14日
読了日 : 2021年2月14日
本棚登録日 : 2020年7月24日

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