青が散る (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋 (1985年11月1日発売)
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本棚登録 : 1060
感想 : 131
4

昔一度だけ読んだ事があった本を読み返してみました。
テニス、恋、友人といった要素が盛り込まれた青春小説です。

主人公は新設されたばかりの大学に入学する事になった燎平。
気乗りしないまま入学手続きに訪れた大学事務局で、燎平は華やかな女性に出会いひと目惚れする。
そして、そのまま入学手続きを済ませる。
入学後、彼は彼女と再会し、さらに巨体の金子にテニス部の勧誘を受けて入部する。
燎平と金子はテニスコートもない状態からたった二人のテニス部を立ち上げ、二人でテニスコートを造り上げる。
やがて入部希望者が集まり、そこから様々な人間関係、恋愛模様が生まれる事となる。

四季で例えれば、青春期は夏だと思います。
テニスに、恋に、友情に、熱くエネルギーを燃やせる季節。
ヒロインの名前も夏子だし、ギラギラした夏を思わせる話でした。
と言っても、この物語の主人公である燎平は特にテニスに情熱を傾けている訳ではありません。
ひと目惚れした夏子に対してもはっきり態度を取ることができない。

元々やりたいから始めた訳でもないテニス。
しかも、将来を約束されるような才能がある訳でもない。
そんな事に青春の4年間という貴重な時間を使っていいものか・・・。
主人公の燎平は逡巡しながらも4年間、テニスをやり続けます。
私も主人公と同じ立場だったら同じように考えるだろうと思います。
しかし、テニスを通して主人公が得たもの-人脈とか友情とか、人生訓みたいなもの、そして己の成長、そういったものは正に主人公だけの人生の宝物だと思いました。

この物語は登場人物がリアルに生き生きと描かれています。
明るい性格の主人公。
華やかで気の強いヒロイン、夏子。
その巨体と同じ気質の金子。
ニヒルでクセのあるテニス部員の貝谷。
清楚なお嬢様の祐子。
彼らが本の中から立ち上がり、テニスのラリーをしている姿、あれこれと行動する姿が鮮やかに浮かび上がりました。
以前読んだ時もそうでしたが、その中でも私は貝谷という男が好きです。
厭世的な雰囲気を漂わせながらギラギラした生命力を内に潜ませる掴みどころのない男。
彼が主人公に与えた影響も大きい。

またこの物語ではテニスの描写も素晴らしい。
試合の様子がはっきりとイメージできる文章で描かれています。
主人公が明るい性格という事もあり、生き生きとした、健やかな生命力を感じる本です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 宮本輝
感想投稿日 : 2013年7月11日
読了日 : 2012年7月23日
本棚登録日 : 2013年7月11日

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