殺す者と殺される者 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M マ 12-4)

  • 東京創元社 (2009年12月20日発売)
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感想 : 27
3

主人公は大学の心理学部の助教授、ヘンリー。
彼は叔父の遺産を引き継いだことにより職を辞し、母の故郷であるクリアウォーターで暮らすことを決意する。
そこには彼の想い人である女性、シーリアがいた。
しかし、彼女は既に結婚して子供までいた。
そして、その事をヘンリーに教えた従兄は彼が叔父の遺産を引き継いだことを聞き、微妙な態度をとる。

そんな事があり暮らし始めたクリアウォーターでは彼の周辺で不審な事が相次いで起きる。
免許証がなくなったり、それを使った誰かが彼の小切手を使い買物をしたり・・・。
しかも免許証は知らぬ間に元あった所に返されていた。
そして、ある日、彼のデスクの上には署名のない手紙があった。
そこにはどことなく見覚えのある文字で、
『いるべき場所はニューイングランドなのでは?
このままではふたりとも破滅してしまう。』
と書かれてあった。
まるで警告文のような手紙。
その警告の通り、その後悲劇的な事件が起きる。

この話は最初から「記憶」について書いており、その事が頻繁に作中にも出てくるので自然に読んでいる方も記憶というものについて考えさせられるようになっています。
そして、ここまで最初からこのキーワードを強調しているという事は事の真相にそれが大きく関わっているのだろう・・・と読んでいると、中盤あたりで大体の真相はつかめました。
それは実際には私が思ったよりももっと根が深いものでしたが、大まかには当たっていて、だからラストもそれほど驚くようなものではありませんでした。

正直、ミステリー小説としては物足りないという印象ですが、この物語のテーマとしている所の記憶について考えた時、興味深いものを感じます。
私自身、記憶というものは本当に曖昧なものだと感じています。
以前、私に俳句をしないか?と言ってきた人とその頃の事を話していた時、私が熱心に俳句をしたいと言っていたというのを聞いて愕然としました。
私は最初、やる気はないとはっきり言ってたのに・・・。
同じような事は他にも多々あって、そういう事がある度にその人にとっての真実はその記憶に基づいたものなのだと思うと、不思議だし恐いと感じます。
そういう曖昧なものによって、思い込みが生まれたり、大げさに言うと今の人格が形成されていたり、現在の生活が維持されているのだと思うと・・・。

この小説ではそのあたりを分かりやすく、オーバーに描いていますが、多かれ少なかれ、こういう事は私たちの中にもあるのだと改めて思う本です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外ミステリー
感想投稿日 : 2013年7月23日
読了日 : 2013年7月23日
本棚登録日 : 2013年7月23日

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