眩談 (幽BOOKS)

著者 :
  • メディアファクトリー (2012年11月30日発売)
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本棚登録 : 432
感想 : 72
3

タイトルのように、まるで目くらましのような話が収録された短編集。
読んでたら気分が悪くなるような、眩暈がしそうな・・・とにかく厭~な気分になる話ばかりでした。

そして、またもや装丁が凝ってます。
と言ってもパッと見て分かるようなものでなく、何となく読んでいて「あれ?」と気づくようなもの。
でもその分からない程度なのが余計に気持ち悪くなる。
例えば文字列が上から下へどんどん移動していたり、中ほどのページには薄らと色がついているボーダーラインがあったり・・・。
「あれ?私目がおかしいのかな?」
そんな風に思わされる、脳がちょっと疲れる工夫がされています。
まあ、そういうのも楽しめるからいいんですけど・・・。

「便所の神様」
汚い。臭い。暗い。
木造建ての平屋に住む少年の話。
少年は特に便所が汚い、臭いので厭だと思っていて、さらに天井を絶対見上げてはいけないと思っている。
なのに、ある日、天井を見上げてしまった少年の目に入ったものは-。

これはとにかく、便所の描写が見ていて気持ち悪い。
ある時点で想像するのをやめました。

「歪み観音」
世の中の何もかもが歪んで見えるようになった女性の話。

「見世物姥」
冬の嫌いな少年は祭を楽しみにしている。
少年の村には祭は6年に一度しかやってこない。
6年ぶりの祭の日、少年は前回の祭の日に同級生が神隠しにあった事を思い出し、その事を見世物小屋のおじさんに言う。
おじさんは自分たちは人さらいではないと言うが、そこには大きな箱があり、箱の中身は見せられないと言う。

「もくちゃん」
頭のおかしな男性(この話では「困った人」となっている)、「もくちゃん」。
主人公の少年の同級生はその「もくちゃん」に懐かれていて、「もくちゃん」と呼ばれている。
同級生の一人は、二人の間は怪しいのではないか?というが-。

これが一番面白いと思いました。
不思議で奇妙な雰囲漂う話。
何気に書いてる事にもすごく共感した。

『何か起きてからでは遅いから、何か起きる前に何とかしておくというのが最近の風潮である。その結果、何か起きてしまった時に何もできない-ということになっているような気もするのだが、どうなのだろう。どれだけ念入りに予防したって、その予防線を上回る出来事というのは起きてしまう。起きる時には起きるものなのだ。だから、何か起きた時にきっちりと始末をつけられるように用意しておくことこそが危機管理というものであるようにも思うのだが、どうも最近は違うようである。』

『危なっかしいものは取り敢えず排除してしまう-それが正義だと、かなり多くの人は考えているのではないだろうか。
少し前までは危なっかしいものであっても排除することはせず、寧ろ上手に共存していくことを考えたものだった。』

全く同感!
変な事ばかり書いてるかと思いきや、こうういう非常にマトモな感覚で書かれている。
だから私でもこの人の書く不思議話についていけるのだと思う。

他、「シリミズさん」という薄汚い人形を祀る実家に帰ってきた女性の話、不気味で古臭いホテルに泊まった男性の話など、全8話。
この本を読む前に読んだ小説が全く文章に魅力がなく、続けてこれを読むといつもより描写も文章も巧みだと感じられた。
変な話ばかりだけど、意外にもちゃんとした小説だと改めて思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 京極夏彦
感想投稿日 : 2013年7月3日
読了日 : 2013年5月21日
本棚登録日 : 2013年7月3日

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