わたくしたちの成就

著者 :
  • 童話屋 (2013年2月17日発売)
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感想 : 14
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久しぶりに読んだ、茨木のり子さんの詩集。
以前読んだ詩集は鋭い感性で紡ぎだされた言葉がまるでナイフのように突き刺さってくるように感じられるものでしたが、今回の詩集はそれに比べると少し丸くなった印象を受けました。
さらに読んでいくと、この詩集は丸ごと、作者がとても大切に思われていた方-多分ダンナ様を偲んで作られた、追悼の詩集なのだと分かりました。
読んでいて、痛いほど故人への思いが伝わってきます。

私が好きなのは「訛」という句。

『無口なひと
しゃべることのきらいなひと
電話はアレルギーを起こすほど
訛があらわに伝わるのがいやなのですね
でも
す と し がごっちゃになって
それがどうしたというのでしょう
わたしがあなたに惹かれたのは紬のようなその東北訛のせいですのに

困らせるとは知りながら
またダイヤルを廻してしまう
するともうこれ以上短くはならないような
ぶっきらぼうな返事が
 あ、や、いや、そう、ンです、じゃ・・・
あなたの言葉のニュアンスに
幼い日 逝ってしまった母の
奥の細道ことばが やさしくだぶってくるようです』

紬のような東北訛という表現が好きです。
ホントに、東北訛ってそんな感じだと思う。
朴訥で素朴で・・・。
多分、これは若い頃のダンナ様とのやりとりを詩にしたものだと思われます。
亡きダンナ様がどんな人柄の方だったのか、この詩で見えてきます。
そしてこの詩に込められた思いも・・・。

この詩集を読んでいる最中、私はこんな風に夫との日常を大切にしているだろうか、丁寧に共に生活しているだろうか、と思いました。
何気ない日常だけど、一日、一日、夫といる時間は少なくなっているのだと・・・改めて知らされたような・・・そんな気になりました。

これは文庫本サイズですが、表紙はしっかりとしていて小さな日記帳のような装丁になっています。
どちらかと言うと女性が喜びそうなとても素敵な装丁。

そしてどちらかと言うと女性向けの切ない詩集です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 詩集
感想投稿日 : 2013年7月3日
読了日 : 2013年6月12日
本棚登録日 : 2013年7月3日

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