『日本沈没』刊行直後から出る出ると言われ続けて33年、ついに刊行された続編である。
小松左京に代わりSF作家の谷甲州氏が執筆を担当(クレジット上は“小松左京+谷甲州”)。他にも大勢の作家や識者が関わってこの本が完成したという。それだけテーマが大きく、深いものなのだ。
地殻変動により日本列島が海中に没してから25年。脱出した日本人たちは世界中に散らばっていた。一部では仲間同士かたまりながら、一部では現地の住民と軋轢を起こしながらそれぞれの生活を営んでいる。
そんな中で時の経過とともに希薄になっていく日本人たちのつながりを強めようと、日本政府の中田首相は日本人の再編成計画に乗り出す。しかしその頃、日本が開発したシミュレータは将来地球全体が大規模な気候変動に襲われることを予測していた…。
国土を失った日本人はどうなるのか?というテーマがあまりに壮大すぎて、前作では日本が沈没したところで終わってしまった。今回描かれる「その後」は言ってみればメインテーマであるのだが、やはり筆致は小松左京とは違い谷甲州節である。雪の中でのアクションシーンなどは緊張感たっぷりでかなり読み応えはあるものの、政治・科学・経済・そして市民社会と様々な視点から日本という国を捉えた前作と比べると、どうしてもスケール感の乏しさや書き込みの物足りなさが気になる。
例えば国民が世界中でバラバラになっている状況で内閣はどうやって成立しているのか?議会は?地方自治体は?皇室は?大企業はどうなっているのか?と様々な疑問が浮かんでくる。
ボリューム自体はかなりあるのだが、それでも物足りないのである。
さらに言えばラストも、どうも駆け足な感じがする。リメイク版『日本沈没』の公開に合わせてあわてて終わらせたのではないかと勘繰りたくなってしまう。
まあ恐らくそうなのだろう。逆に言えば、そんな時間が限られた中でこれだけの内容をこの長さでまとめたのはすごい技だと思う。
それに、あの内容が濃密な前作と比べられる事が宿命となっている小説を、プレッシャーに負けず書き上げただけでも谷甲州の力量は計り知れない。こうなってくると山田正紀の日本沈没とか、神林長平の日本沈没とか、思い切って池上永一の日本沈没(←全然違う話になりそう)なんかも読んでみたくなったぞ。
中田や阿部玲子など前作のメインキャストが元気に登場するのも嬉しい。また東アジア情勢など現代のトピックをふんだんに盛り込んでストーリーに活かしているのは現代に書かれた日本沈没の続編としてとても意義がある。ただ、ラストのあの歌はちょっと狙いすぎな感じもした。
小松左京によるあとがきには『日本沈没』や「小松左京マガジン」、そして日本人、人類、文明、知性への飽くなき情熱が語られている。
※余談だけど「小松左京マガジン」といえばお笑い芸人パックンことパトリック・ハーランが小松左京の短編小説「人類裁判」を英語に翻訳しているのを見てビックリしたことがある。小松作品は意外と英訳されていないとのことなので、こういう取り組みは大事だと思う。
優れたSF小説であり日本人論でもある本書。ぜひ前作とご一緒に。
- 感想投稿日 : 2011年8月5日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2011年7月29日
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