アパシー・シンドローム (岩波現代文庫 学術 95)

著者 :
  • 岩波書店 (2002年12月13日発売)
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感想 : 6

笠原よみし、と読むらしいが読めるわけもない。

本著では、アパシー=無気力、といった症状についてかなり詳細に分析が加えられている。理論、分類、臨床例など、論文としても充実しているが、精神病理の分類について詳しくないため厳しいところも多々あった感は否めない。ともかく、現在的には「引きこもり」に分類されるであろうアパシーについて、広い視野から分析がなされている。そもそも、アパシーとは一体何なのか?うつ病なのか?それとも、神経症なのか?はたまた、性格障害なのか?分裂病でないことは明らかであろうが、この三者の中でどれにあたるのか著者は苦心している。うつ病としての可能性はありうる。ただし、その場合、「退却性」といった名称が付されることになる。これは神経症においても同様である。いうなれば、うつ病の方が症状として重い、といった程度の差異でしかない。だが、これが性格障害となると、趣きを異にする。つまり、根底に「強迫性格」といった性格構造があり、その上部構造として、うつ病や神経症が生じている、としたものである。

著者自身は、ここで、強迫性格と上部構造という構図が正鵠を射ているのではないか?と考えている。というのも、著者からすれば、うつ病とアパシーは明確に分けられる上に、それにもかかわらず、両者が入り混じったような、あるいは判別しがたいような、症例が見受けられるからである。ちなみに、両者の明確な違いは、うつ病者は自ら医師の許を訪れるが、アパシー患者は訪れない。更に、アパシー患者は勝敗のつく物事において最初から逃げてしまうものの、メランコリー親和型うつ病者はむしろ最後まで徹底抗戦する、といった具合である。となると、やはり、アパシーとうつは違うのだろうか?ちなみに、ここに「境界例」といった言葉が鍵として出現する。境界例は、今日、神経症と精神病の境界としてや、幼児期の「再接近期」での葛藤などによって、出現すると精神力動的には説明される、パーソナリティである。突然、キレる、という言葉がよくあてはめられるけれど、そういう急な切り替わりみたいなものが、境界例として当てはまるのだろうか?ともかく、著者は果敢に「境界」に飛び込んでいく。アパシーとメランコリー親和型うつ病の境界の、逃避型うつも然りであるし、あるいは、分裂病や境界例の患者が、ヒステリー患者よりも、発達的見地に関して劣っていることはない、などといった具合である。正直、著者はアパシーといった症例を浮き彫りにしようと努めているのであって、それ以上の、「着地点」がいまいち見つけられずなんともすっきりしないのだけれども、縦横無尽に、精神病理学、反精神病理学、精神力動などを駆使する著者はたいした人物であると言いたいけれど、やっぱり、「病理」という言葉に取り付かれている気もする。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 臨床心理、精神分析、精神病理
感想投稿日 : 2012年1月29日
読了日 : 2012年1月29日
本棚登録日 : 2012年1月29日

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