僕に踏まれた町と僕が踏まれた町 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (1997年8月20日発売)
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本棚登録 : 1986
感想 : 151

とりあえず、ウィキペディアで経歴を見てみると、
それだけでなんだかすごかった。
学生結婚、行き当たりばったりの暮らし、そこから、一山当てる。
酒への依存、躁うつ病、に加えて、麻薬。
出身は灘高。なんだか、すごいね。


しかし、躁鬱病。
躁はほとんど続かず、鬱が数ヶ月続くというのは生々しい。
おまけにギャグ。ギャグっていうのは、冷静になると、
すごくつまんなく思えたりするので、それを書くだけで、
精神状態は酷く不安定になる。
だから、お笑い芸人だとかギャグ漫画家などに向いてるのは、
たぶん本質的には考えなしだとか、天然なひと。
けれどそういうひとの考えるものっているのは、
こう捻りにかける。捻りをつくれるひとは、たぶんむしろ、
かなりナイーヴなひと。
それだけにギャグってものがある意味で破滅的だ。

灘中、灘高と優等生から滑り落ちていくという過程。
最初の頃は羽目を外した優等生だったのが、
いつからか、劣等生になる。そんな区分は嫌いだし、
このひともきっと嫌いなのだろうけれど、
そうやって自分を縛ることから逃れられずに苦しみ続ける。
なににも縛られずに奔放そうに生きてるひとに限って、
実は自分のことを酷く縛り付けてる場合があって、
それであたかも奔放そうに笑い続けていることがある。
その裏にある苦悩は推し量れるようなものじゃない。


けれど、このひとには芯のようなものが通っている。
いつだって、確信があったのだろう。
自分はやらかせるという確信。
そして、奥さんがいたわけである。
うらやましい限りだ。
側に苦楽を共にできるひとがいてくれるという幸せ。


悲観的な人間が楽観的を装った結果の悲惨なる結末が、
彼なのだろうけれど、けれど、きっと彼は幸せだったはずだ。
じゃあ、いいじゃないかって思う。
じゃあ、いいじゃないですか、中島らもさん。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 国内小説(現代)
感想投稿日 : 2011年4月21日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年4月21日

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