産業カウンセリングの理論的な展開 (現代のエスプリ別冊 新しい産業カウンセリングの展開シリーズ 1)

制作 : 渡辺三枝子 
  • 至文堂 (2001年11月1日発売)
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感想 : 1

※ちなみに、本著が見当たらなかったのでここにレビュー。
実際は『産業カウンセラー事例集Ⅰ』という本です。

如何とも分類しがたい一冊。ちなみに、この一冊かなり実験的な書籍らしく出版されるほどの体裁を整えていないと思われる。事例集なのだが、形式が統一されておらず、中には、感想文もどきのものなどもある。まず、事例集なのだから、「逐語記録」はある程度正確に残してほしいものである。もっと言えば、クライアントの発言とそれに対するカウンセラーの応答を、逐語でなくともいいから要所要所はしっかりと記してほしいものである。ちなみに事例集のⅡでは形式が統一され、Ⅲではコメントなども付されている。そもそも、事例集なのだから、ある程度の「逐語」は必須であるし、それに対するスーパーバイズも必要である。逐語などもなくカウンセラーが感じたことだけあっさりと記されているだけではそのカウンセラーの対応具合への判断もしがたい。単純にそれこそ「こういったケースに出くわしたときにどう対応すればいいか」という議論しかできず、それは本著からすっかりと離れた議論となってしまう。とはいえ、その中でも、面接ごとにクライアントが述べたこととそれに対するカウンセラーの応答が残されているものもあり、そういった部分は参考になると思われる。

つまるところ、実際に現場に出ている有資格者の中には、理論をいくらかないがしろにしている人も多いのだろう。傾聴だけでは解決しきれない、だとか、コンサルも必要なのだとか、実際に見ているとアドバイスが多々見受けられるのである。そしてそれが議論では正当化されている。これにはメリットとデメリットがある。つまり、カウンセリングと産業カウンセリングがまったくの別物と化してしまいかねない、という事実である。それでいい、そうあるべき、だと考えている人も中にはいるのだろうが、この線引きは難しい。つまり、産業カウンセラー内では確固たる理論と言うのは築かれおらず、人によってそれぞれ「理論」が異なってしまっている、という現業があるのだろう。事例を見ていると、ゲシュタルト療法を用いる人もいれば、家族療法を用いる人もおり、様々な理論をそれぞれ飲み込んでしまっている割に、産業カウンセラー内では「派」が形成されていないものだから混沌としているのかもしれない。とはいえ、やはり優れたカウンセラーというのは、「積極的傾聴」あるいは「絶対的傾聴」を行使してラポールを形成した後に、「助言」というよりは、相手の言質や行動を元にした「直面化」を試みることで、クライエント自身に気づきを与えて自己解決するよう志させているように感ぜられる。とはいえ、中には、自己解決が困難な依存的なパーソナリティを持っている人もいるだろうからそれはまた難しい問題となってくる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 臨床心理、精神分析、精神病理
感想投稿日 : 2012年9月20日
読了日 : 2012年9月20日
本棚登録日 : 2012年9月20日

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