数奇にして模型 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2001年7月13日発売)
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本棚登録 : 6929
感想 : 456
5

S&Mシリーズの第9弾。
やっぱ、好きだな。このシリーズ。

約20年前の小説だけど、色あせないよね。
また、書かれている内容が濃い。

こういっちゃなんだけど、最近の森先生の作品よりもこのころの方が内容が濃くて、深い文章が一冊にたくさん入っている。(もちろん、最近の小説が浅いとは言っていませんよ。このころの方が深い内容がたくさん入っているということです)

しかも、哲学的なんですよね。
例えば、本書で主人公の天才女子大生・西之園萌絵嬢が嬉々として殺人現場に向かう際に彼女が思う感情描写が非常に考えさせられます。
ちょっと引用します。

  その感情を、どう説明できるだろうか?
  首が切断された死体のすぐ近くで、彼女は、待ち合わせの恋人に手を振るみたいに弾んだ気持になった。
  新しい冒険が始まる予感でもあった。
  不謹慎だろうか?
  もし不謹慎だというならば誰に対して?
  社会の一員として自分を正当化するつもりなど、彼女には毛頭ない。
  そんな必要など、どこにもなかった。
  人によっては不謹慎だと思うかもしれないけれど、では、不謹慎とは何か?
  その境界はどこにあるのか?
  地震学者は、大地震が発生すると喜んで出かけていく。
  医者は珍しい病気の患者に群がる。
  核分裂の研究が何に利用されようと、科学者の興奮は冷めない。
  自分の子供をモルモットにしたのは誰だった?
  最初にグライダで空を飛んで墜落死したのは誰?

  決して他人の不幸を無視するつもりはない。
  けれど、勉強して成績を上げることも、すべて、スポーツの試合で勝つことも、商売で成功してお金を儲けることも、会社で出世することも、すべて、誰かから搾取した幸せなのだ。
  どこかで誰かが不幸になっているのである。
  どこに「不謹慎」の境界があるのだろう?
  社会のため、正義のため、などと言い訳をするのは悪いことではない。
  だが、本心からそれを信じているのなら、明らかに偽善だ。
  そんな精神が本当に多数存在するならば、警察も、政治家も、教育者も、すべてボランティアだけで組織できるだろう。

てな感じです。
いかがでしょう?
深いですよね。うん。深い。

こんな話がS&Mシリーズには随所にちりばめられています。
このドキッとする文章を目の当たりにする愉しさがあるのですよね。
いや~。読書って愉しいですね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(エンターテイメント)
感想投稿日 : 2020年10月17日
読了日 : 2020年10月15日
本棚登録日 : 2020年10月17日

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