僕がこよなく愛する村田沙耶香の最新短編集。
僕にとっては村田沙耶香作品の11作品目、この『生命式』を読了して、現在のところ未読は『殺人出産』『地球星人』2作品のみとなった。
いままで中編作品は何度も読んだが、本書に含まれているような小編を含めた短編小説は村田沙耶香作品では初めてだ。
非常に興味深かった。
本書にはかなり古い過去の作品(収録されている最も古い作品は2009年発表の『街を食べる』)も含まれており、彼女の文筆の傾向が変っていくのが分かって非常に面白い。
本書は、表題作の『生命式』を含め、12の中小作品が収録されおり、いままで村田沙耶香作品を読んできている読者が読むと『にやり』とする作品も多い。
例えば『タダイマトビラ』で登場した『ニナオ』と名付けられていた重要な小道具である「カーテン」の原型が本書に収録されている小編『かぜのこいびと』にも登場している。
『タダイマトビラ』の発表が1012年3月で、この『かぜのこいびと』も同じ年の4月ということも非常に興味深いところだ。
村田沙耶香作品といえば『コンビニ人間』『消滅世界』『しろいろの街の、その骨の体温の』『タダイマトビラ』など傑作ぞろいだ。
しかしながら、この短編集に収録されている小編には、「これはちょっとまだ甘いな。」と感じられる作品も少なからずある。
例えば、自分には人間らしさがないと思い込み、他人の誰をも無条件で愛してしまう早苗という女性を描いた『パズル』や街の中に生えている雑草等を食べるようなっていく女性OLを描いた『街を食べる』などはもっと切れ味を良くして肉付けしていけばさらに傑作作品に仕上がったのではないかと思われる。
しかしながら、こういった僕からみればいまいちな作品であっても、そういう作品をあえて本書に収録し、読者が普通に読むことができるということが重要なのだ。
なぜなら、こういったいまいちな作品が生みだされる過程のなかでこそ『コンビニ人間』や『タダイマトビラ』などの傑作が生まれてくるからだ。
間違いなく将来傑作にいたるであろう物語の原型がどの作品のなかにも感じられる。
本短編集で最も秀逸なのは表題作の『生命式』、それに続く『素敵な素材』、そして最後の『孵化』だろう。
死んだ人間を食べるということが儀式として日常化した社会を描いた『生命式』や、死んだ人間の骨や皮を利用した家具やアクセサリーが最も価値の高いものであるという社会を描いた『素敵な素材』など現代人の常識を根本から覆す作品だ。
僕はこの作品を読みながら何度も頭を抱えた。自分の価値観があまりも狭い範囲でしか機能していなかったということをまざまざと見せつけられるからだ。
そして中学校、高校、アルバイト先、就職先などの環境において自分の性格をカメレオンのごとく変化させてしまう女性を描いた『孵化』。
この『孵化』は『コンビニ人間』においてコンビニの歯車としてしか生きることのできない主人公の女性・古倉恵子を彷彿とさせるものがある。
本書は村田沙耶香ファンならぜひ手に取ってもらいたい短編集である。『クレイジー沙耶香』の頭の中をほんの少しだけ垣間見れるような気がする傑作短編集だ。
- 感想投稿日 : 2020年2月8日
- 読了日 : 2020年1月29日
- 本棚登録日 : 2020年2月8日
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