身体の零度 (講談社選書メチエ)

著者 :
  • 講談社 (1994年11月2日発売)
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本棚登録 : 258
感想 : 18
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身体の動きや認識・感覚を考えることで人類が生存してきた歴史における近代化・文明そして民族性などを省察する論考である。部分部分は面白く意表をつき納得できるが、読み終わって全体としては「はて、何を言いたかったのかな」という感じである。
「身体の零度」という言葉自体、あくまでも作者の思考のなかでの概念であり、自己満足の用語に思えてしまう。しかし幅広い読書による豊富な知識とユニークな切り口・説得力のある論理展開に惹かれて最後まで読めた。演劇や舞踊・ダンスの人間にとっての本質的な意味を問う評論でありエッセイであることはよくわかる。東洋的な摺り足の踊りに対して飛び跳ねるダンスは西洋的とし、最後のまとめで「舞踊は長く原初生産性のもとにあった。それは農耕民の舞踊であり、遊牧民の舞踊であった。だが、いまそれは、近代によってもたらされた身体の零度に根ざす総合芸術、いや、芸術以上のものになってきたのである‥‥身体によって、宇宙における人間の位置を確認する行為だった。」という。
たまたま、「大地」を読んでいる途中だったので、それを引用しての立論のくだりには共感・触発されるところもあったが、しかし何故ここで唐突にパール・バックの「大地」なのかという気もする、牽強付会を感じる。今読んでいる故に感じる微妙な違和感により、他の引用もこういう強引な面もあるのかと思えてくる。その本を読んでいない人には、自分はここに出てくる文献は殆ど読んでおらず作者の名前すら初めて聞いたものが多い、作者の訴えようとしているニュアンスは伝わりにくい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年5月16日
読了日 : 2023年5月15日
本棚登録日 : 2023年5月15日

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