大地(一) (新潮文庫)

  • 新潮社 (1953年12月30日発売)
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清朝末期中国の貧しい農村を舞台に、水呑百姓王龍と奴隷出身の阿蘭の夫婦が大地を耕し働き抜いて農地を買い集め成り上がっていく物語。一家は旱魃や水害・いなご害など逆境にもめげず、一時都会に避難しながらも王龍はその土地を朝早くから夜遅くまで耕し、阿蘭も黙々と働き多くの子供を産み(王大・王ニ・王虎の男三人と娘一人、生後間引きした一人と長女は栄養不足で白痴になる)、凄じい努力で二人は裕福になり宏壮な邸宅に大家族をなすまでになる。
当初、エーカー・ヤード・インチ・ポンド‥など欧米の思考や基準で中国伝統の世界を覗き込むような違和感を感じたが、読み進めていくうちに慣れてきて、かえって農民の土地への愛着と儒教的家族主義など東洋の伝統が西洋から見た新鮮さとして描かれている感じになるから不思議である。展開が速くストーリーの粗さもあるが、これも慣れてくると大陸風のダイナミックさとテンポの良さとしてこの物語のリアリティを増幅する。過酷な状況や残酷さの描写は劇画的でもありデジタルで無機質な表現もこの小説にとっては欠くべからざる個性なのである。
余裕のできた王龍は妾を囲い同居する。筆舌に尽くせぬ苦労を共にした老妻を差し置いて、若くて華美な女に目移りする男の性が恨めしい。阿蘭に先立たれ老境の身にあって、自然や外の脅威から財産を守ることと子供達の教育や結婚・相続など一家の運営に頭を悩ます。土地所有を家訓にして築き上げた「大家族」の守りにこだわりながら死んで行く。
中国の大地で土にまみれて生きた二人の一生が鮮烈である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年5月7日
読了日 : 2023年5月7日
本棚登録日 : 2023年5月7日

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