耳なし芳一からの手紙 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (1992年2月20日発売)
3.25
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本棚登録 : 241
感想 : 10

【概略】
 差出人は「耳なし芳一」、「火の山で逢おう」という言葉が書かれた手紙、そんな手紙を持っていた男性が新幹線の車中で死を遂げた。ダイイングメッセージは「あの女にやられた」というもの。車中に居合わせた浅見光彦は、やはり車中に居合わせ嫌疑をかけられた漫画家(志望)・池宮果奈と自称ヤクザの高山とともに謎解きに挑むこととなる。

2024年01月03日 読了
【書評】
 大好きな浅見光彦シリーズ、そして「耳なし芳一」、さらには舞台が下関・赤間神宮・壇ノ浦・平家物語・七卿ときた日にゃ(2024年1月4日から始まる九州遠征の前に)読了だ!・・・と、読み始め、あっという間に読み終えてしまった。内田康夫さんは、本当に読みやすい。
 ミステリーだからネタバレしないように書き進めることにする。下関に絡んだ描写は沢山ある(下関そのものは重要な意味がある)のだけれども、小泉八雲の「耳なし芳一」そのものとの関連は、薄い。背景としては、太平洋戦争終戦の際、朝鮮半島から必死の思いで逃げ帰った軍属の方達、一般の方達の話が根底にある。そこに「耳なし芳一」「七卿落ち(幕末の八月十八日の政変を期に三条実美をはじめとする七卿が京都から落ちのびたこと)」が見事に織り成された形になっているのだよね。平家物語から幕末へ。歴史が多層な形でミステリーに活用されるという。
 表現の端々に内田康夫さんの戦争に関する想いが見てとれる。「かつて、戦争という犯罪に、親たちは多くの息子たちを送り出したこともあるのですよ」といったセリフを登場人物が述べているのだよね。理論上、戦争は(戦争を行うという決断は誰かがどこかでするのだけども)国家が成す行為であるため、犯罪とはならなくて。でもその戦争という枠の中で起こる細々とした事象は当然ながら個人が起こしていて。理論と感情がこれほど折り合わないものはないのが戦争で。本書内でも主人公の浅見光彦がその心境を表してたね。
 今回はいつもの常連、浅見光彦のご母堂・雪江やお手伝いの須美子の他、漫画家になるべく下関から上京をする途中に事件に巻き込まれた池宮果奈、そして自称ヤクザの高山のキャラクターが凄く立っててストーリーの進行にリズムをつけてくれてる。
 内田康夫さんは既に他界されていて。ということはもう新たな浅見光彦作品は世に出ないということ。とても寂しいね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: サスペンス・ミステリー
感想投稿日 : 2024年1月4日
読了日 : 2024年1月3日
本棚登録日 : 2024年1月4日

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