困難な結婚

著者 :
  • アルテスパブリッシング (2016年7月4日発売)
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感想 : 106
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最初は面白い本だなと思っていましたが、読んでいる途中でむかむかしてきました。
なんだか全体的に「男ばっかりで結婚を語る」みたいになっている。雰囲気が良くなかったです。
読んでみた印象として、著者は男性で、しかも苦労をあまりしていないように感じました。
日本社会は「体の丈夫なおじさん」のために存在しているのであり、そういうおじさんに結婚を語らせるとこうなるのだな、という感じ。

ときどき、論点が居酒屋で愚痴を言っているおじさんのようにズレてしまっていて、特に「姓を変えるのが女性であるということに悩んでいる。不公平じゃないか」という問いに対して、「帯刀をしている時代は~」とか「僧の呼び名の由来は~」とか言ったって、そういうことじゃないのになぁ、と思いました。
この方は恐らく、女性のみが姓を変更しなければならない煩雑さについてイマイチ分かっておられないのでしょうね。
「籍を入れる入れない」で言うなら入れるに賛成ですし、夫婦別姓は推進していませんが、女性がしなければならない手続きはどんなものかとか、核家族化でただでさえ人間関係の希薄な現代において、慣れ親しんだ家族と同じ姓を捨てるという気持ちに女性が至るということに想像が届かないんだな、と。
「姓にどうするべきという定説なんてないし、そんなものはいいじゃないか」と言ってみるのは簡単ですが、論点はそこじゃないでしょ? と突っ込みを入れたくなりました。

また、p,134からの家庭のボスの話では、自分が世話になって養ってもらっていた元妻に対して、自分が彼女より稼ぐようになってからは、彼女の指示にカチンと来て従えなくなった、とありました。
それはこの方が「稼ぐお金=権力、パワーバランスの主軸」と思っていることに直結しているんですよね。
あくまでも沢山お金を稼げる人が偉くて、そうじゃない人は蔑んでいいんだ、それが当然だ、と言わんばかり。
いくら恩があっても、奥さんが稼げなくなったら稼げるほう(自分)に意見を言わないことが普通、と思っているんですね。仮にも自分はかつて、彼女に養われていたにも関わらず。
結婚生活は一人で暮らして絶滅しないためのリスクヘッジだ、と言い切るだけのことはあります。

夫婦の家事分担の話になると、今度は「きっちり線引きしすぎるとグレーゾーンのものは誰もしなくなって家が殺伐とするからどちらかが気づいたらする、でいいのだ」と言っていますが、そんなの普通では……?

離婚された奥さんとの間では家事分担で議論をして、それがもとで疲れた、離婚して二人の娘と暮らし始めたら、全部自分がやるから揉めなくなって気鬱なネゴシエーションをしなくて良くなった、らしいですが、それって奥様から言われたことひとつひとつに「俺に命令するんじゃない!」ってイライラしてたってことなんでしょうか。
極めつけは「今の奥さんは年がずっと下ですし、人の上に立ってあれこれ言うタイプじゃないので、家庭内権力闘争というのはないですね」と。結局上に立って、自分が命令したいだけと捉えられても仕方がないように思いました。

「本当にやりたいと思えば留学も旅行もどうにでもなる」という考えも、パートナーの協力があってこそ、と考えるのではなく、あくまでも「自分の気の持ちよう」「本当にやりたいことは抑えられない」といった論調なのが、とても(悪い意味で)男らしい。

「自分の機嫌は自分で取れ」といいながら、女性には「風邪の予兆を察知して事前にアイスクリームを買っておいたら良い」と言うその考え。果たしてご自分は出来るのでしょうか? と問いたいですし、大切なのはそこではないですよね? 他人や奥さんを機械か何かだと思っているのでしょうか。

しかし、男性なので仕方がないですね。だって(著者曰く)「性化された状態で生まれてきた」結果でしょうから。本人にはどうにもならないんでしょう。

アナーキズムの話や哲学の話、勉強や教養といったことに対してはかなりのレベルのものを持ちながら、最終的には恋愛、結婚の話となると一気に「居酒屋のおじさん」と化してしまう。

恋愛とか人の情動とかって永遠の課題であるわけですね。
そしてこういう考えの方が「社会的地位」において上のほうにいるからこそ、「女性が活躍する社会」と謳いながらも活躍できない、子育ても難しい、離婚が増加の一途を辿る……そういった社会になるのではないかと思えてなりませんでした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: レビュー済
感想投稿日 : 2019年10月11日
読了日 : 2019年10月10日
本棚登録日 : 2019年10月8日

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