新世界より(下) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2011年1月14日発売)
4.24
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本棚登録 : 12533
感想 : 1053
5

【感想】
異世界やSFという壮大なスケール感だけでなく、ストーリーや設定の構成の高さに鳥肌たちまくりの、非常に読み応えのある面白い作品でした!!!!

今まで本作品を「和製ハリーポッター」と思いながら読んでいたが、呪力以外では全然そうじゃないかも。
「風の谷のナウシカ」や、「約束のネバーランド」もプラスされたような、なんとも不思議な世界観のファンタジーでした。
そう、この物語を一言で申し上げるなら、「壮大なスケールの世界観」!!この言葉に尽きるでしょう!!
上中下巻とおして、ストーリー構成は勿論ですが、それ以上に本物語の世界観の完成度が凄すぎた!!
(なんと、構想期間は30年もかかったとのこと!!これには貴志祐介先生には感服せざるを得ませんね・・・・)

また、これほど非現実的なファンタジーであるのに関わらず、現実の世界でも通用するような教訓も沢山描かれていたのではないでしょうか?
中でも特筆すべきは、やはりバケネズミと人間の関係性でしょう。
主従関係に関してバケネズミが人間に抱く憎しみは、あながちフィクションでも何でもなくて、現実でも大いにあり得る事なのでは・・・なんて思ったりもしました。
主人と奴隷という関係性だけでなく、上司と部下、雇い主と労働者、恋人同士や親子などの関係性でも、同じような感情が芽生えてしまう事ってあるのかも。。。
そして、最終巻の最後の方で判明した「バケネズミは能力者ではないただの人間だった」という伏線回収には、本当に鳥肌ブッツブツでしたね!!!!
小説を読んでこれだけ舌を巻くのは久しぶりかも。

あと、上巻・中巻でまき散らされた伏線も全て回収されており、絶望を煽るだけ煽って尚中途半端に終わらせずに綺麗に物語が折りたたまれていく様は、読んでいて感心してしまいました。
何故このような世界が誕生したのか、古世から今の世界まで成り立ちや歴史、人種、世の中の仕組みや現世のインフラについても綿密に書かれており、「こりゃ構想30年もかかるわな!!」と思いました。

ただ、唯一難癖をつけるとすれば、真理亜のボカされた最期についてかなぁ。
途中までは真理亜がラスボスになるかと予測いたし、キャラクターが立っていて良かった為、途中退場してしまったのは少しばかり肩すかしでした。
(真理亜の最期については特に書かれていなかった?)

あと、「歴史の傍観者に徹していた科学文明の継承者たち」は結局何をしたの??
いつのまに能力者に「愧死機構」なんていう足かせがついてしまったの??
等々、読み終わっても尚、余韻と一緒に色々な疑問も残りました。。。

まぁ、それを差し引いても、十分すぎるくらい面白い作品だったと思います!!
設定が凄まじくて、鳥肌たちまくり、舌巻きまくりでした。

最後に・・・・
夕方に家の近所でよく流れていたあの曲って、ドボルザークの「家路」って曲だったんだ!!笑
てっきり、日本の民謡だと思ってました(笑)
懐古の情に溢れるイイ曲ですよね。大好きです。


【あらすじ】
夏祭りの夜に起きた大殺戮。
悲鳴と嗚咽に包まれた町を後にして、選ばれし者は目的の地へと急ぐ。
それが何よりも残酷であろうとも、真実に近付くために。
流血で塗り固められた大地の上でもなお、人類は生き抜かなければならない。

構想30年、想像力の限りを尽くして描かれた五感と魂を揺さぶる記念碑的大傑作!


【印象に残った文章や台詞】
1.鏑木氏の卓越したカリスマ性がなければ、これほど容易くパニックを鎮める事は不可能だったろう。見事な人身掌握術だった。
心から恐怖を追い出せるほどの強い感情は、怒りしかない。
劇薬に頼るのと同じで危険だが、気付け薬には、それだけ強い刺激が必要なのである。

2.我々の全種族を、お前たちの圧政下から解放することだ。
我々は、高い智能を持っている。本来なら、お前たちと平等に扱われるべき存在なのだ。
にもかかわらず、お前たちの悪魔の力によって尊厳を奪われ、獣のような扱いを受けてきた。
もはや、お前たちを地上から一掃する以外に、我々の誇りを回復する道はない!

3.多くの人が殺され、両親の安否すら分からない。今や、わたしたちには帰るべき町もないのである。
不世出の能力者だった日野光風氏も鏑木氏も斃れ、わたしたちには悪鬼に対抗する手段は何一つ残されていない。
だが、それでも諦めるわけにはいかない。
将来に何の展望もないときこそ、本当の強さが試される。その意味でも、今こそが試練の時なのだ。

4.野狐丸が秘かに描いていたグランドデザイン
野狐丸のもうひとつの、そして真の目的は、託児所を襲って人間の赤ん坊を手に入れることだった。
バケネズミによって託児所の子供たちを育て、さらに多くの子供を略奪して悪鬼の部隊を編成すれば、日本から極東アジア、いずれはユーラシア大陸全土から全世界を征服することさえ夢ではない。
偉大なる、バケネズミの世界帝国の誕生だ。

5.「もし、あの子が本当に悪鬼だったんなら、なぜ野狐丸たちは無事でいられるの?」
どうして奴には、攻撃抑制も愧死機構も無効なんだ?

あの子は産まれてすぐ両親から引き離され、バケネズミによって育てられた。
だから自分のことをバケネズミだと思っている。
自らをバケネズミだと思っているあの子には、同族であるバケネズミを殺すことはできない。
しかし、異類である人間なら、何の逡巡もなく抹殺できるのである。

6.「なぜ、人間に反逆しようとしたの?」
「我々は、あなたがたの奴隷ではないからだ」
わたしは、奇狼丸の言葉を思い出した。言っていることは、ほぼ同じである。
「我々は、高度な知性を持った存在です。あなたがたと比べても、何ら劣るものではない。違いといえば、呪力という悪魔の力を持つか否かだけだ」

7.「私たちは、人間だ!」
一瞬観衆は静まり返った。それから、どっと爆笑が起きた。
スクィーラが叫ぶ。
「好きなだけ笑うがいい。悪が永遠に栄えることはない!私は死んでも、いつの日か必ず私の後を継ぐものが現れるだろう。そのときこそ、お前たちの邪悪な圧政が終わりを告げるときだ!」


p518
バケネズミが人間ではないかと、うすうす疑うようになったのはいつ頃からだろう?
唐突に、夏季キャンプでミノシロモドキを捕らえた時に瞬がした質問が、わたしの脳裏に浮かび上がった。

「奴隷王朝の民や狩猟民達は、呪力・・・PKがなかったんだろう?その人たちは、一体どこへ行ったんだ?」
それに対するミノシロモドキの答えは、不得要領なものでしかなかった。
「その後、現在に至る歴史について、信頼の置ける文献はきわめて少数です。そのため、残念ながら、ご質問の点に関しては不明です」

背筋を、悪寒が走った。
わたしたちの先祖である人々が、呪力を持たないそれ以外の人間を、バケネズミに変えてしまったというのか?


【メモ】
p146
「さっき、2人殺されたのを見ただろう?5人いようが、100人いようが、所詮は同じことだ。悪鬼に対して、どう戦いようがあるんだ?いいから、向こうへ行け!」
野口医師は、覚の胸を突き放す。
一体なぜ、バケネズミの襲撃と軌を一にして、悪鬼が出現したりするのか?


p153
「奇狼丸の率いる軍が、どうして全滅したのか。いくら勇猛でも、相手が悪鬼では、ひとたまりもなかっただろう。」
覚は言った。
「それに、なぜ野狐丸が開戦に踏み切ったのか。バケネズミと悪鬼の関係はまだわからないけど。もし、僕の想像が当たってるなら・・・」


p205
「バケネズミに死を!」
群衆は熱狂し、拳を振り回しなかまら、シュプレヒコールを繰り返した。
鏑木氏の卓越したカリスマ性がなければ、これほど容易くパニックを鎮める事は不可能だったろう。見事な人身掌握術だった。
心から恐怖を追い出せるほどの強い感情は、怒りしかない。劇薬に頼るのと同じで危険だが、気付け薬には、それだけ強い刺激が必要なのである。


p222
「兵士の命だと?くだらん。大義の前には、一個体の生命など、鴻毛(こうもう)のように軽いのだ」
「その大義というのは何なんだ?」
「我々の全種族を、お前たちの圧政下から解放することだ」
「我々は、高い智能を持っている。本来なら、お前たちと平等に扱われるべき存在なのだ。にもかかわらず、お前たちの悪魔の力によって尊厳を奪われ、獣のような扱いを受けてきた。もはや、お前たちを地上から一掃する以外に、我々の誇りを回復する道はない」


p225
多くの人が殺され、両親の安否すら分からない。今や、わたしたちには帰るべき町もないのである。
不世出の能力者だった日野光風氏も鏑木氏も斃れ、わたしたちには悪鬼に対抗する手段は何一つ残されていない。
だが、それでも諦めるわけにはいかない。
将来に何の展望もないときこそ、本当の強さが試される。その意味でも、今こそが試練の時なのだ。


p254
野狐丸のもうひとつの、そして真の目的は、託児所を襲って人間の赤ん坊を手に入れることだったのだ。
12歳の、夏季キャンプに行った時の記憶がよみがえった。
「土蜘蛛の女王が産んだ幼獣、それこそが貴重な戦利品。我々のコロニーの明日を支える労働力となるのです」

「倍々ゲームどころじゃない」
覚が蒼白な顔で言う。
「最初は、真里亜たちの子供だ。その子が成長して、鏑木さんさえ対抗する術を持たない悪鬼となった。そして、その勝利で得た大勢の子供たちが、十年後みんな呪力を使えるようになれば・・・」
わたしにもようやくわかった。これこそが、野狐丸が秘かに描いていたグランドデザインだったのだ。

バケネズミによって託児所の子供たちを育て、さらに多くの子供を略奪して悪鬼の部隊を編成すれば、日本から極東アジア、いずれはユーラシア大陸全土から全世界を征服することさえ夢ではない。
偉大なる、バケネズミの世界帝国の誕生だ。


p298
「サイコ・バスターとは、古代文明の末期に、アメリカで超能力者一掃計画に用いられた細菌兵器の俗称です」


p464
「我々が東京の地下を探索することにしたのは、今回と全く同じ理由からです。人類の古代文明の遺物である、大量破壊兵器を入手するためでした」
「何のために?」
わたしの質問に、奇狼丸は失笑を漏らす。
「何のため、ですか?兵器が欲しいときは、通常コレクションのためではありません、使うためです。サイコ・バスター程度では力不足ですが、もし核兵器か大量破壊兵器を入手できれば、人類に取って代わり、我々の覇権を打ち立てることも不可能ではないと考えました」

「すべての生物は、自らが生き延び、繁殖することを目的とするよう作られています。
我々のコロニーに関しては、将来にわたって存続し繁栄することが、唯一無二の目的なのです。
したがって安全保障上、あらゆる危険を想定し、対策を用意する必要があります。
大雀蜂コロニーは傘下に多くのコロニーを抱えていましたが、敵対コロニーのみならず、すべての友好コロニーに対しても、急襲して皆殺しにするための戦闘計画が立案されており、必要ならいつ何どきでも実行可能でした。」

奇狼丸は、淡々と続ける。

「そう考えたとき、人類の存在が我がコロニーにとってどれほど大きな不確定要因であり脅威であるかは、容易に想像して頂けるでしょう。
良好な関係とは、一体何でしょうか?
我々は人類に対して忠誠を誓い、山海の幸を献上し、役務を提供することでようやく生存を許される立場です。
しかし、それでさえ、いつ風向きが変わるか分かりません。」


p475
「もし、あの子が本当に悪鬼だったんなら、なぜ野狐丸たちは無事でいられるの?」

「じゃあ、どうして奴には、攻撃抑制も愧死機構も無効なんだ?」
「たぶん無効じゃないと思う。」
「ごく単純に考えてみて?
あの子は産まれてすぐ両親から引き離され、バケネズミによって育てられたんでしょう?
だから自分のことをバケネズミだと思っているはずだわ」
わたしの中でぼんやりと渦巻いていた考えは、今や確信に変わっていた。
自らをバケネズミだと思っているあの子には、同族であるバケネズミを殺すことはできない。
しかし、異類である人間なら、何の逡巡もなく抹殺できるのである。


p480
あの子は、悪鬼ではなかった。
あの子には、本来何の罪もないのだ。
両親をバケネズミに殺され、バケネズミによって育てられ、その命令により大量殺戮を行なった。
自らをバケネズミと信じていた彼には、何の疑問も、良心の呵責もなかったことだろう。

それだけではない。
あの子はバケネズミの命令に対して、一切逆らうことができないのだ。
バケネズミに対して強固な攻撃抑制と愧死機構に縛られているあの子は、文字通りバケネズミの奴隷なのである。


p506
「なぜ、人間に反逆しようとしたの?」
「我々は、あなたがたの奴隷ではないからだ」
わたしは、奇狼丸の言葉を思い出した。言っていることは、ほぼ同じである。
「我々は、高度な知性を持った存在です。あなたがたと比べても、何ら劣るものではない。違いといえば、呪力という悪魔の力を持つか否かだけだ」


p508
「私たちは、獣でも、おまえたちの奴隷でもない!」
この言葉で、聴衆の怒りは最高潮に達した。しかし、死を覚悟している野狐丸は怯まなかった。
「獣でないとしたら、お前は一体何なのです?」
スクィーラは、ゆっくり法廷の中を見渡した。
「私たちは、人間だ!」
一瞬観衆は静まり返った。それから、どっと爆笑が起きた。
スクィーラが叫ぶ。
「好きなだけ笑うがいい。悪が永遠に栄えることはない!私は死んでも、いつの日か必ず私の後を継ぐものが現れるだろう。そのときこそ、お前たちの邪悪な圧政が終わりを告げるときだ!」


p518
バケネズミが人間ではないかと、うすうす疑うようになったのはいつ頃からだろう?
唐突に、夏季キャンプでミノシロモドキを捕らえた時に瞬がした質問が、わたしの脳裏に浮かび上がった。

「奴隷王朝の民や狩猟民達は、呪力・・・PKがなかったんだろう?その人たちは、一体どこへ行ったんだ?」
それに対するミノシロモドキの答えは、不得要領なものでしかなかった。
「その後、現在に至る歴史について、信頼の置ける文献はきわめて少数です。そのため、残念ながら、ご質問の点に関しては不明です」

背筋を、悪寒が走った。
わたしたちの先祖である人々が、呪力を持たないそれ以外の人間を、バケネズミに変えてしまったというのか?


p520
愧死機構とは、いわば呪力による強制的な自殺なのだ。したがって、呪力がなければ愧死機構も機能しないことになる。
「それで、邪魔になった人たち、呪力のない人間を獣に変えてしまったのね」
わたしは、これまで自分の暮らしていた社会が、いかに罪深い存在だったかを悟って、戦慄していた。
呪力を持った「人間」たちは、異形の姿へと変えられたかつての同胞たちを、獣のように惨殺し続けてきたのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2019年10月16日
読了日 : 2019年10月16日
本棚登録日 : 2019年10月16日

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