秘密 (文春文庫 ひ 13-1)

著者 :
  • 文藝春秋 (2001年5月10日発売)
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感想 : 3299
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【感想】
東野圭吾の代表作の1つと言われている本書。
これまで同作家の本の数々を読んできましたが、何故かこの本だけ見事に見落としていて、読んだことがありませんでした。
20年以上も昔の本なのですが、そこはやはり名作、とても読み応えのある1作品でした。

「あらすじ」にも書いてある通り、主人公の妻と娘がバスの事故の被害に遭ってしまい、娘は無事意識が戻ったものの、精神自体は妻のモノになってしまっているという物語。
正直はじめは、父を励ますために娘が母のフリを頑張って演じているのかな?と思いながら読んでいましたが、そうではありませんでした。
個人的にとても共感した点は、「娘・藻奈美の身体を借りて新しい人生にチャレンジしよう」という妻・静子の試みです。
小さい頃を顧みて、「あの時こうしたらよかった」と思うのはもはや人間の性なのかもしれません。
そこに、「自分の娘の人生をより良いものにしてやりたい」という親心も加わっているのも、かなり自然な事なのかもしれませんね。
ただ、夫・平介の嫉妬心もよく分かる気がします・・・こっちはこの複雑な環境に我慢しているのに、君だけ青春を謳歌しやがって!って、そりゃ思いますよね。
本当に、平介には幸せになってもらいたいです。

少しSFチックな内容ではありましたが、家族の人間模様や心理描写がとても精細に描かれていました。
僕自身、妻と娘の3人家族であるため、読んでいて感情移入の度合いがハンパなかったです(笑)



【あらすじ】
運命は、愛する人を二度奪っていく。
自動車部品メーカーで働く39歳の杉田平介は妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美と暮らしていた。
長野の実家に行く妻と娘を乗せたスキーバスが崖から転落してしまう。
妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。

その日から杉田家の切なく奇妙な“秘密"の生活が始まった。
外見は小学生ながら今までどおり家事をこなす妻は、やがて藻奈美の代わりに 新しい人生を送りたいと決意し、私立中学を受験、その後は医学部を目指して共学の高校を受験する。
年頃になった彼女の周囲には男性の影がちらつき、 平介は妻であって娘でもある彼女への関係に苦しむようになる。

98年度ベストミステリーとして話題をさらい、広末涼子主演で映画化、志田未来主演で連続ドラマ化もされた東野圭吾の出世作。
累計200万部突破の伝説のベストセラー。


【メモ】
p427
「お父さん」藻奈美がいった。「あたし、帰ってきてもよかったのかな」
平介は彼女のほうを向いた。彼女は泣きだしそうな顔をしていた。
「当たり前じゃないか」と彼は言った。「お母さんも喜んでるんだ」
藻奈美はほっとしたように頷いた。


p428
「最後にもう一度ここへ連れてきてくれてありがとう。」直子が言った。
平介は、彼女のほうに身体を向けた。
「やっぱり・・・最後なのか」
彼女は彼から目をそらさずに頷いた。
「どんなことにも終わりはあるのよ。あの事故の日、本当は終わるはずだった。それを今日まで引き延ばしただけ」
そして小声で続けた。「引き延ばせたのはあなたのおかげよ」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2020年7月20日
読了日 : 2020年7月20日
本棚登録日 : 2020年7月20日

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