実は本書の出版をSNSで知ったのが、こんなに駿やジブリに集中するきっかけになったのだ。
この本、カバーイラストがまず素敵。なんでもジブリは関連書籍に厳しいらしく、研究書に原作を引用する許可を出したのは初めてなのだとか。
そして引用文のフォント。
漫画版に合わせて、漢字はゴシック、ひらがなは明朝、というその拘りように、感動したのである。
読んで気づいたが、章が4つ、1章を除いて2-4章の節が4つ、その中で項が3つずつ、と構成も美しい。
そうこうするうちにコロナ禍、マスクあれこれ、映画館でジブリキャンペーン、と世相とも合致。(読後知ったが、数日後にナウシカ歌舞伎の配信が始まるそうだ。)
さて駿のフィルモグラフィーを経て、本書を読んでみて、すっきり理解したかといえば、全っ然。
だって原作自体が、混迷の中に終始しているのだ。
結局「ミソもクソも一緒に生きようという考えしか、これからの世界には対応しようがない」(『虫眼とアニ眼』)のだから。
章、節、項ごとにキーフレーズを拾った、それは非公開読書メモに書くが、さらにピックアップすれば、
西域憧憬。部族社会。陸風、海風。背負う。首長制。孤児。擬態としての母。語りは鏡。境界で対峙を繋ぐ。家族の幻想。贖罪。カリスマ。自己犠牲。贖罪。国家の権力意思。カリスマ。二元論への懐疑。1000年、300年の断絶。生態系。年代記。ポリフォニー。文字から分泌される権力。反ー黙示録。
決定版ではない。なぜなら原作が決定版という位置づけを拒んでいるから。
ずっと現在であり、未来に棚上げ・保留せざるを得ないのに現在形で気になり続ける作品に、立ち向かい続けるための、本書はひとつの棒だ。
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はじめに
第一章 西域幻想
1 秘められた原点
アニメとマンガのあいだ
はじまりの風景から
宮崎駿の種子をもとめて
2 神人の土地へ
小さな谷の王国
旅立ちのときに
奴隷とはなにか,という問いへ
第二章 風の谷
1 風の一族
部族社会としての風の谷
腐海のほとりに暮らす
風車とメーヴェのある風景
2 蟲愛ずる姫
背負う者の哀しみとともに
ギリシャ神話のなかの原像
血にまみれた航海者との出会い
3 子守り歌
孤児たちの物語の群れ
あらかじめ壊れた母と子の物語
擬態としての母を演じる
4 不思議な力
物語られる少女の肖像
境界にたたずむ人
王蟲の心を覗くな,という
第三章 腐 海
1 森の人
水と火と調和にかけて
火を捨てて,腐海へ
世界を亡ぼした火とともに
2 蟲使い
たがいに影として森に生きる
武器商人から穢れの民へ
森が生まれるはじまりの朝に
3 青き衣の者
ふたつの歴史の切断があった
邪教と予言が顕われるとき
犠牲,または自己犠牲について
4 黒い森
腐海の謎を読みほどくために
第三の自然としての腐海
喰う/喰われる,その果てに
第四章 黙示録
1 年代記
年代記と語りと声と
いくつかの歴史語りが交叉する
文字による専制が産み落とした偽王たち
2 生命をあやつる技術
悪魔の技の封印がほどかれる
帝国を支える宗教的呪力の源泉として
対話篇,シュワの庭にて
3 虚無と無垢
呪われた種族の血まみれの女
内なる森を,腐海の尽きるところへ
名づけること,巨神兵からオーマへ
4 千年王国
千年という時間を抱いて
墓所の主との言葉戦いから
物語の終わりに
終 章 宮崎駿の詩学へ
おもな参考文献
あとがき
- 感想投稿日 : 2020年8月24日
- 読了日 : 2020年8月24日
- 本棚登録日 : 2020年8月24日
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