司馬遼太郎さんが語る、ヨーロッパの歴史。
司馬遼太郎さんが語る、ビートルズ。刑事コロンボ。ジョン・フォード。
実にわくわくな1冊。
歴史であれ、音楽であれ化学であれ経済や株式であれ。
詳しい人から話を聞くときに、
「ああ、なるほどそういうことなのかあ、面白いなあ」
と思える話し手もいれば、
詳しいのかも知れないけど、どうにも良く分からないし、面白くもない、という話し手もいます。
司馬遼太郎さんは、僕にとっては極上の話し手。
この本は、「司馬遼太郎さんがアイルランドを旅行して、色々考えた」という紀行エッセイです。
なんですが、見聞したことをそこはかとなく書き付けた、というものでは全くありません。
アイルランドって、何なんだろうね。
ということを主に歴史から読み解いていく。
アイルランドを知るためには、イギリスを分からねばならず。
イギリスを分かるためには、なんとなくヨーロッパという全体図が見えなくてはならない。
という訳で、アイルランド紀行の第1巻(全2巻)のこの本は、ほぼ、「イギリスとは」というお話。
もともとはブリテン島にいた民族が、征服民族に除けられてしまった。
征服民族が、大まか現在のイングランド。
除けられた、もともとの人々が、スコットランド、ウェールズ。
制服した側というのは、つまりローマ帝国の影響を受けた、当時で言うところの先進文明人だったわけです。
そして、イギリスという国家のあゆみ。
カトリックとプロテスタントの違い。イギリス国教会の成立。
そしてイギリスは、アイルランドを侵略。
ケルト人たちのアイルランドは蹂躙され、殺戮され、とんでもないえげつない支配を受けます。
重税。人権の制限。貧しい階層に子々孫々とどまるしかない制度。
多くのアイルランド人が、生きて行けずに国を捨て、アメリカ、イギリスなどに働きに出た。
カトリック=アイルランド原住民。
イギリス国教会またはプロテスタント=支配者層。という構図。
そのお話の過程で、アイルランドに向いた貿易港である、リバプールという港町の立ち位置。
リバプールの英雄、ビートルズに流れるアイルランドの血。
主にアメリカに多くいる、アイルランド系の人々。
「アイルランド系」という言葉の持つ、不屈、自己完結、執念、頑固…という「反体制者特質」
「ダーティー・ハリー」。「風と共に去りぬ」。ジョン・フォード。
アイルランドの悲劇の歴史を俯瞰的に淡々と語りながら、
目の前に「アイルランドという土地と人の背負ってきたもの」が、魅力たっぷりに広がります。
無論のこと、ただの賛美ではありません。
そういう地域に独特な、非合理性。後進性みたいなもの。組織力の低さ。
そういうことも視野に入っています。
ただ全てが、賛否の感情的民族論ではなくて。
そういう歴史の流れの中で必然、そうなっていくものだろう、という平明な視座があります。
だからといって諦めでもなく。
そんな中で生まれた芸術。ジョイス。「ガリバー旅行記」。夏目漱石との関わり。
善悪ではなく、そこの人の営みを、文芸を、見つめる目線は穏やかな愛情が湛えられています。
実に面白い。
帝国主義とは簒奪の仕組みであり、この本は被害者側の歴史です。
ただ、それを見るためには加害者の歴史も見なくてはわかりません。
なんだか、日本と沖縄、北海道、あるいは朝鮮半島についての「たとえ話」を聞かされているような。
本の半ばで、ようやく司馬さんたちはアイルランドに上陸。第2巻に続きます。
- 感想投稿日 : 2016年7月13日
- 読了日 : 2016年7月13日
- 本棚登録日 : 2016年7月13日
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