金閣寺 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.68
  • (1133)
  • (1254)
  • (2090)
  • (201)
  • (53)
本棚登録 : 14529
感想 : 1366
5

参りました。ごめんなさい。許してください。
相変わらず変態。ヘンタイです。
美しいです。
好きではないけど…面白い!…うーん。脱帽ですね。


三島由紀夫さん。
食わず嫌いの印象論で言うと、余り好きではないのです。

でも、そこは男児四十にして惑わず(?)、読んでみましょう。
励みとしては、橋本治さん「三島由紀夫とはなんだったのか」を、いつか読むために。

と、言う長いタイトルの個人的試みの、第2弾。
第1弾の「仮面の告白」もそうなんですが…読んでみて。
「やっぱり好きじゃねえよ、俺」。…と、好みとしては思うんですが…。
でも、力負けと言うか。

オモシロイ。

それは誤魔化しようがないです。



1950年に、京都の金閣寺(つまり鹿苑寺)が、同寺の若い僧によって放火されて全焼。
犯人の若い僧は吃音、つまり、どもりの強い人だったそう。
放火の後、薬飲んで腹に刃物を突き立てて自殺未遂のところ、警察に確保。
さまざまな心理的な動機があったそう。つまり、判りにくい動機でしかなかったそう(笑)。
父は僧侶で既に病死。
母は息子の犯罪を受けて自殺。
犯人の青年は統合失調症(かつては精神分裂病と呼ばれていましたね)と診断。
懲役7年。
どんどん病気が重くなり、服役中の1956年3月に病死したそうです。

さて、この実際の事件をモデルに書かれたのが、小説「金閣寺」。
犯人の病死する以前、1956年1月から雑誌に連載開始。
三島由紀夫さんの創作資料として、金閣寺及び犯人さんの周辺に、執拗に取材した取材ノートがあるそうです(当然取材拒否されまくったそうですが)。

あくまで、「モデル」ですから。
実際の事件や犯人とは違うところもあるようです。

主人公は「私」。一人称小説です。
裏日本の侘しい寒村。貧しい住職の息子。
物心ついてから、ずっと吃音。
その劣等感に苛まれ。
健康、若さや恋愛、性愛や女性や友情…。と、かけ離れた少年期。
醜い己。惨めな自分。
美しさ、は自らの彼岸に常にあり。

戦時色強い時代に、病の父の希望、鹿苑寺(金閣寺)の住み込み修業僧に。
父の口癖は「金閣寺ほど美しいものはない」。

内向的。喜びの無い生活。
父の病死。母の期待。「いつか金閣寺の住職に」。
大谷大学に進学も。誰からも愛されず認められず。関心も持たれず。
ひたすら金閣寺の美に酔い、儚く寒く生きてきた主人公。
唯一の友人。人生の微かな灯。
しかし、その友は戦後の混乱期に事故死。

そして、障害を持つ悪友が出来る。
この友が、実に純粋なる悪意に満ちて、偽善に満ちた現世を打つ。
己の障害を糧に、利用し、女を誑す。善意の仮面を剥ぎ、露悪の醜悪を叩きつけ、刹那のみに価値を置く。
ファウストのような、フォルススタッフのような、ドクターキリコのような。
影響を受けつつも、そこまで強靭になれない。
ナイーブな「私」。

きっかけは、やはり「異性」と「友情」と「職場」と「家族」。
つまりは「人間関係」。
友情に見捨てられ。異性への惨めな憧れ。満たされぬ思い。
それを上回る、汚れた男女関係への嫌悪。
そして、金閣寺住職が金に倦んで女遊びをしている現実。
何かが切れてしまう。ぐれていく。反逆する。
もともとが孤独な青年が、余計に周囲から孤立していく。
最早、将来、金閣寺の住職、という希望もない。

そして、母が。自分を見る目が冥い。


ふっ。 …と、裏日本に出奔のように旅に出る。生まれ故郷の近く。冥い海。寒村。
そこで、雲から陽が差すように、思いが浮かぶ。

「金閣寺を燃やさねばならぬ」

…ここんとこ、超絶です。

スバラシイ。

時間が停まり。水際から一斉に鳥がはばたき。タラの夕陽にスカーレットが誓うような。
四回転ジャンプから何もなかったかのように完璧に着氷するような。
触れなば斬れん白刃の緊張感。
その断崖を超えた、無重力状態の恍惚。
(最近は、フィギュア観戦も愉しんでいるので…)

もう…たかが紙に文字が印刷されているだけで、コレダケの感情を他人の脳みそに作れるのか。
ほんとに、スバラシイ。

一事が万事ですが、文章が超絶です。
日本語が巧緻です。
三島さんの本人も、相当に苦心されたようです。
成程「仮面の告白」に比べたら、硬質、ハードボイルド。

放火するあたりからの畳み込み方は、息もつけない。
仁左衛門の油地獄を観ているよう。
スタンディング・オーベーション。
拍手喝采アンコールの暴動です。

…なんだけど…なんなんでしょう、この感じ。
…若い肉体の饐えた腋臭をコレデモカと嗅がされたような…。
なぜここまで、複雑にねじれ曲がった不幸を舐めるように憎悪しつつ愛さねばならんねん…。
かわいそうやねん…。

異形の彼方の、孤独のパンクロック。
内臓を抉って豚の腸を投げて、全裸になって糞尿を垂れるような。
そんな超絶パンクな、ホモで難病のロックスターのコンサートを見せられたような…。

なんだけど、歌声の澄み具合…美しい…というような。

正常と日常と安寧と平和と均整。
そんな僕たちの「普通」の、なるたけ隠したい暗部と陰部と欺瞞の構造的矛盾を、レイプのように暴虐にたたきつけるんですよね…。

…うむむむ。
いや、美味しいんですよ。すごい料理人の仕事が詰まった誇り高い逸品です。
なんだけど…。いや、凄いですけど。
好き、というのぢゃ、無いのですよ…。

なんだけど…。
その語り口。
その優雅さと無駄の無さ。
高名な指揮者の忘我の棒振りを見るような。
フィギュアやバレエの奇跡的な最高得点演技を見るような。
うーん。
これが美しさ。文章の芸術と言わなくて、何が芸術なんだろうか?という感じ。

細かくは覚えていませんが、

"戦争が人生を私から遠ざけた" (だったかな?てにをはは、自信なし)

…もう、こんな文章が惜しげもなく乱打されます。
拾い集めて額に入れたいようなフレーズが湯水のように、ダダ流れ。音色で言えば、エリック・ドルフィーの神がかり演奏のような。

月並みですが、才気溢れん語り口。
それに、恐らくは、想像を絶する「努力」と「執念」の人だったのかな…と。
解説等でも言及されていますが、「金閣寺放火事件」をモデルにしつつ、三島さんは三島さん自身を叩きつけているんだと思います。
世の中的に言うと、戦中育ちの戦後世代、そして無類の金持ちボンボンとしては、秩序混沌たる戦後の時代に、自らの劣等感と時代の大人たちへの不信感の泥沼を這い回って来たのでしょうが。

また、そんな観点もおいおいと。

次は、「潮騒」か「豊饒の海」か…。
三島由紀夫さん、恐るべしですね。
実に面白く、美しい。

なんだけど…なんかキモチワルイんですよね…。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本:お楽しみ
感想投稿日 : 2014年11月9日
読了日 : 2014年11月9日
本棚登録日 : 2014年11月9日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする