世俗と離れて暮らす中年女性の家に、恋人とともに逃亡してきた日系ペルー人の若い男性。心の支えを失った者同士が繰り広げる濃密な3日間を描く。
強烈に愛した人への思いを忘れられない女性と、日系ペルー人として日本人にもペルー人にもなりきれずアイデンティティの欠落に悩む青年。埋められない空洞を抱えた二人が、サルサのリズムに乗って踊る様は、南米が舞台の映画でも観ているかのようだ。
それも、開放的な明るさではなく、むせ返るような暑さとうんざりするような閉塞感、熟れきって停滞する倦怠感というような。かつて観た映画『予告された殺人の記録』を思い出した。
内に残り続ける女性と、不安ながらも外に踏み出す男性との対比もいい。
作者のまだ青いけれど確かな言葉の積み重ねに、現実と幻想とが入り交じった場所に心が連れ去られるのが心地よく、才能を感じる一冊だった。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2019年7月25日
- 読了日 : 2019年6月26日
- 本棚登録日 : 2019年6月24日
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