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著者 :
  • ポプラ社 (2016年11月30日発売)
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感想 : 630
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僕が読みとったこの本のテーマを、あけすけに言うなら、感受性の自己肯定だと思う。愛に満ちた幸福な自分と比べて、不幸な人に思いをよせるときの、中途半端な思いやりの偽善性を、自分で糾弾することによって自分を赦す、自己欺瞞を感じることの深い落とし穴について。鏡に映る自分をさらに写す鏡を写す鏡・・・というような、自意識の無限反射の牢獄を描いた上で、そうした不幸の発端とも言える感受性を、いかに自己肯定できるようになるか、というストーリーなんだと思う。それは、ニーチェのルサンチマン批判のような、不幸自慢の断罪とは異なり、庄司薫の「あかずきんちゃん気をつけて」が描いたような、愛への共感に似た、ストレートな生の肯定に近い。主人公は、一般の日本人からするととても特別な境遇に生まれ(ニューヨークに住むアメリカ人と日本人の、裕福な家庭に引き取られた、シリアからの養子)、上記に示したような繊細な感受性を持っているのだが、作者はその感受性のあり方を、決してその子に特別なものではない、私達にも同じように感じ得る普遍的なものとして共感させてくれる。でもその一方で、それは彼女のアイデンティティにもつながっている(つまり特別なもので)、そのあたりのバランスの取り方は、とても巧みだ。彼女が育む、親友との友情も、やはりとても特別で魅力にあふれているけれど、でもそれでいて、私達にとって決して手の届かないものでもない。そんな普遍的なストーリーをつくりあげることに、彼女は成功していると感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2018年1月9日
読了日 : 2018年1月9日
本棚登録日 : 2018年1月9日

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