人間の絆(上) (新潮文庫)

  • 新潮社 (2007年4月24日発売)
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本棚登録 : 657
感想 : 36
4

モームの自伝的長編小説。
1915年に書かれているので100年経っている。
後年書かれた『月と6ペンス』が大ヒットしたおかげで、『人間の絆』も読まれるようになったらしい。ベストセラー作家というとどうしても村上春樹と比較してしまう。両者とも読みやすく面白い本を書くが、ノーベル賞から距離を置かれるなど共通点もある。

肝心の小説に話を移す。
主人公フィリップ・ケアリが両親を失い叔父夫妻の養子になるところから物語は始まる。神学校に入学して、ドイツに語学留学に行ったりロンドンで会計士になろうとしたり、やっぱりやめてパリで画家を目指したり、そしてロンドンに戻って医師になるというお話。上下巻合わせて1300ページあるので、かなりボリュームがある。行く先々でたくさんの人物が登場する。

友人たちとの出会いと別れや、恋愛に焦点が当てられている。けっこう衒学的で、その当時のロンドンやパリでの暮らしや、芸術についての考えや身の立て方、果ては紳士とは?などいろいろと世情を垣間見れる。

上巻で僕が気に入ったのは実家やキングススクールという神学校で過ごした時期の話だ。主人公が高校生になるくらいまでの話。主人公フィリップは先天性内反足という障害を持っていて、それが為にいじめられるなど鬱々とした毎日を過ごす。このあたりでは感情がほとばしるような筆致に圧倒された。

青春期によくある迷いといえばその通りだが、主人公フィリップは変遷の多い人物だ。あれになると言ったらやっぱりやめる。次はこれを目指すといったように。息子の節操のなさに呆れながらも愛し続けるケアリの叔父さんと叔母さん、立派な人物で頭が下がる。全体を通して感情の機微、人生の上がり下がりが上手く描かれている。なかでも人物の描写はまるで優れた絵画を思わせるように情報に富んでいて、厭きることがない。

唯一残念だったのは、主人公フィリップが小説家にはならないことだ。モームの口から小説家になるとはどういうことか語られたとするなら、きっと面白い話になっただろうからだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外小説
感想投稿日 : 2020年4月8日
読了日 : 2020年4月8日
本棚登録日 : 2020年3月29日

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