不遇の境遇からローマ帝国皇帝にまで登りつめ、そしてペルシア遠征の地で32歳で命を落とした「背教者」ユリアヌス。その生涯を叙事詩的なスケールで描く大河小説。上中下合わせて1000ページと大部だけれど、全然苦にならない、どんどん読んでいける。
作中でのユリアヌスは、秩序を何よりも重んじる人物として描かれる。理性に基づいた人間の営みが、社会に国家に秩序をもたらすという信念のもとローマ帝国を運営していこうとする。その信念は時に夢想的なほどに理想主義。そうした彼が理想としたのはギリシャ的な哲学の世界であり、マルクス・アウレリウス・アントニヌスのような哲人皇帝による政治。だからこそ、キリスト教徒はそうした古典的な秩序美しい秩序を乱す存在として、ユリアヌスには映った。秩序のうえの寛容さでもってキリスト教も受け入れようとするものの、彼の理想主義的な政策は時に世に受け入れられないが、それでも邁進する。
これら信仰同士、政治同士、あるいは信仰と政治の相克を見事に描いているところが、ただスケールの大きな歴史小説とは一線を画している点。ただ単に主人公がどうしたどう考えたではなくて、それらの背景にあるより大きく根深い構造を掘り出してこそ、こうした小説には意義があると思う。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2014年6月25日
- 読了日 : 2013年12月28日
- 本棚登録日 : 2013年12月22日
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