三島由紀夫の小説は大昔に『金閣寺』『仮面の告白』『花ざかりの森・憂国』を読んだが、内容を覚えておらず、決して読みやすくはない文体に挫折したものもある。小説を読み始めたばかりで、当時の自分にはまだ早かったのかもしれない。
今年が50回目の憂国忌ということで、いい機会だと改めて読んでみることにした。まずは読みやすいと言われる(が三島由紀夫らしさは無いらしい)『潮騒』から読むことに。
帯に「究極のプラトニック・ラブ」とあるが、本当にプラトンの時代に書かれたんじゃないかというくらい古典的な恋愛モノだった。
戦後(1950年頃?)都会の風俗が何一つなく、盗みも発生しないような超牧歌的なとある島が舞台。漁師をしている18歳の男「新治」は、養女に出されていたところから帰ってきた海女「初江」に恋をしてしまう。お互い相思相愛になるけど恋敵に邪魔をされたり初江の親父(頑固親父)のせいで逢えなくなったりするけれど、最後は上手くいくという絵に描いたようなハッピーエンドを迎える。ドキドキするようなことはなにもない。
「 新治は答えずに、おどろいたような顔をした。初江の赤いセエタアの胸に、黒い線が横ざまに惹かれていたかである。
初江は気がついて、今まで丁度胸のところで凭れていたコンクリートの縁が、黒く汚れているのを見た。うつむいて、自分の胸を平手で叩いた。ほとんど固い支えを隠していたかのようなセエタアの小高い盛上りは、乱暴に叩かれて微妙に揺れた。新治は感心してそれを眺めた。乳房は、打ちかかる彼女の平手に、却ってじゃれている小動物のように見えた。若者はその運動の弾力のある柔らかさに感動した。はたかれた黒い一線の汚れは落ちた。」(p.33)
こんな感じの描写もあれば、全裸で抱き合ってキスしてもなにもしないなど明らかにどうかしている描写もあり、結局最後までセックスはしない。当時は頑固親父もいれば貞操観念も強く、こうした物語が実在した……のかは知らないが、非常に歪な物語に思える。
現代ならば、恋敵(安夫という男がいる)が初江を襲うのに成功して寝取られるとか、頑固親父を殺してしまうとか、二人の仲を引き裂きかけた千代子が自殺するとか、親父に阻まれ会えないうちにどちらかが島を出て、初江は別の男と結婚して、One more time, One more chanceと共にエンドロールが流れ出したりするのだろうか。
ともあれ、この小説にはヒーロー、ヒロイン、恋敵、恋を遂げる上での困難と、恋愛小説の最大公約数がしっかり揃っている。そういう視点で考えると、ハッピーエンドにせよバッドエンドにせよ、こういった物語(ロンゴス『ダフニスとクロエ』がこの小説の元ネタらしい)が恋愛小説の原点にあって、どんどん進化を遂げていったのかもしれない。
- 感想投稿日 : 2020年11月3日
- 読了日 : 2020年11月3日
- 本棚登録日 : 2020年11月3日
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