レッド・オクトーバーを追え 上 (文春文庫 ク 2-1)

  • 文藝春秋 (1985年12月1日発売)
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感想 : 29
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 80年代、まだソ連があった時代に、ソ連の最新鋭原子力潜水艦の艦長(ラミウス大佐)が、原潜まるごと米国へ企てるという凄まじい設定の話。核のある時代に戦争を避けなければならない両国の思惑が、現場である潜水艦とブレーンである政治の両面で火花を散らす。
 凄まじい設定とは書いたが、実際にソ連の防空軍中尉が亡命のためにソ連の戦闘機に乗ったまま日本の空港に強行着陸する、なんて事件が70年代にあったらしく、亡命した中尉が作者に助言を与えているのだとか(Wikipedia ヴィクトル・ベレンコより)。とんでもないSSS級バックラーだ。
 私が物心付いたときにはもうソ連は崩壊しており、米ソの対立を肌で感じたことはなかったのだが、小説映画共にヒットしたということは、きっと当時の米国のソ連に対するイメージを掴んだ小説なのだろう。

 古い小説であり訳もやや読みにくく知らない単語も多くて読み辛いのが残念だったが、政治の世界の上層部、スパイ、そして軍隊がそれぞれ未曽有の大問題に様々な制約の中で答えを出すことに努める様は非常にスリリングだった。
 相手国の潜水艦を撃沈する寸前までいくような、実際に戦争に突入する手前までいく描写もある。折りしもこの小説を読んでいる2020年1月、米国とイランで一触即発の事態が発生しており、SNSのトレンドに第三次世界大戦などと物騒な単語が躍り出ていた。
 こう考えると、米ソ対立・冷戦という昔を描いたこの小説は過去のものではなく、見えるところでも見えないところでも、こうした戦争を迎える危険とそれを回避する努力が続けられているのかも知れない。

 なお、米国側の小説ということで、貧しいソ連の軍人が米国の豊かさをにわかには信じられずびっくり仰天する、というコミカルなシーンも描かれる。先述のベレンコ中尉も実際に壮大なカルチャーショックを受けたそうだが、ソ連が崩壊した今、米露の比較文化なんてものもあれば読んでみたいなと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: アメリカの作家
感想投稿日 : 2020年1月12日
読了日 : 2019年12月31日
本棚登録日 : 2019年11月15日

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