日本人のためのイスラム原論

著者 :
  • 集英社インターナショナル (2002年3月26日発売)
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感想 : 38
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何度読んでも学ぶべきことが沢山ある、素晴らしい本。
マックス•ウェーバーの方法論で、イスラム社会において資本主義が生まれ得ない理由を論理的に説明してみせる。
この書を通じて改めてウェーバー<プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神>の有する凄さと射程の広さが理解できる。
其の意味で<プロ倫>のよき解説書でもある。
何故、お堅いプロテスタントだけが、資本主義の精神に火をつける触媒たり得たのか?
それを説く論理は、推理小説よりも遥かに面白い。

社会学はすべからく宗教社会学なのだ。
こう喝破したのは、日本では小室直樹であり、大澤真幸だが、元々は、社会学そのものを作り上げたマックス•ウェーバーが主張し、実践してきたことだ。
資本主義もマルクス主義も、宗教として捉えない限り、理解出来ない。
当然、宗教そのものの分析を行なうのも社会学だ。
だから、宗教社会学に、資本主義分析も、マルクス主義分析も、貨幣の発生も、国家の発生も含まれるのだ。

日本人には縁遠いイスラム教は、世界宗教理解の要だ、と小室は言う。
ユダヤ教、キリスト教と起源を同じくするイスラム教は、なぜ、ユダヤ教とキリスト教と相容れないほど異なってしまったのか?
その謎を追いながら、気がつくとイスラム教のみならず、ユダヤ教、キリスト教についての理解も深まっている。
日本人がキリスト教を易々と受け入れながらも、もう一つの世界宗教であるイスラム教が、なぜ日本では全く受け入れられないのか、これだけ明快に説明した本はない。
それは、イスラム教には厳しい戒律が存在し、キリスト教には存在しないことにある。
日本人は戒律が嫌いだ。
仏教導入に際しても、仏教の根幹である戒律を取り除いてしまった。

イスラムは、合理的な宗教だ。
キリスト教こそ、非合理性を内包した不思議な宗教であることが分かる。
その非合理的で不思議なキリスト教から資本主義が生まれ、合理的なイスラム教では資本主義が生まれない、その理由を明らかにする。

イスラムを知ることで<異常>なキリスト教を理解する<不思議なキリスト教>のオリジナルとも言える。
キリスト教程捻れた、おかしな宗教はない。
その不思議な、キリスト教こそが資本主義という魔物を生み出したと言うことが社会学が取り組むべく最大の、且つ魅力に満ちた課題なのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会学
感想投稿日 : 2023年7月31日
読了日 : 2005年9月19日
本棚登録日 : 2022年11月26日

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