阪神淡路大震災との遭遇。
サトラコヲマンサマと離れた姉は“自分で、自分の信じるものを見つける”ために、父と一緒にドバイへ。
大学入学をきっかけに上京した主人公歩は、チャラい大学生になって女の子と片っ端からやりまくり、野生が理性を凌駕した最初の一年を過ごす。
二年生になり、映画サークルに入部し、下半身が奔放な鴻上との出会い。
父と姉の帰国。
姉の奇妙な行動。
父の出家。
母の再婚。
姉の唯一の心の支えであった矢田のおばちゃんの死。
三十代になった歩に起こった肉体的異変。
歩はそれまでいろいろなものから逃げていた自分に気づく。
葛藤、自戒。
そんな中での須玖との運命的な再会は大きな希望だ。
父と母の離婚の本当の理由を知ることになる歩。
毅然とその話をする姉は、昔と同じような自分勝手のようでありながら、どこか違っていた。
そして、生涯の伴侶を得てサンフランシスコに住む姉から届いた手紙。
274P
“ そして歩、あなたの名前は、歩よ。
歩きなさい。
そこにとどまっていてはだめ。あなたの家のことを言ってるのではない。分かるでしょう。
あなたは歩くの。ずっと歩いて来たのだし、これからも歩いてゆくのよ。
お父さんに会いなさい。話を聞きなさい。
そして、また歩きなさい。自分の信じるものを見つけなさい。
歩、歩きなさい。”
自分は何がしたかったのか?
何をしたいのか?
家族に何を望んでいたのか?
そして、これから何を信じて生きていけばいいのか?
自分の周りで起こる事件に出会う度、歩は葛藤し、もがき、苦しみ続ける。
そんな歩の最後に向かうべき場所は───。
341P~342P
“ 僕は禿げていた。僕は無職だった。僕は34歳だった。
僕はひとりだった。
信じるものを見つけられず、河を前に途方に暮れている34歳の僕は、きっと幼い頃の僕よりも、うんと非力だった。
僕が手放したものは、どこへ行ったのだろう?
輝かしい僕の年月は、どこへ行ったのだろう。
涙は止まらなかった。”
345P
“ 僕は生きている。
生きていることは、信じているということだ。
僕が生きていることを、生き続けてゆくことを、僕が信じているということだ。
「サラバ。」”
この二カ所を引用しただけで、私は再び涙が止まらなくなる。
私たちは何かを信じて、生きることを諦めてはならない。
今、生きることや、人生に問題を抱え悩んでいるすべての人々にこの本を読んでもらいたい。
ここには、今後そういう人たちに優しく手を差し伸べてくれる何かがきっと詰まっているはずだ。
直木賞受賞作は数多あれど、これほどの傑作は類を見ない。
読んでいる間、特に後半に進むにつれて胸が震えた。
読み終えるのが残念だとさえ思った。
こんな素晴らしい小説に出会えた私は幸せものだ。
私の読書人生の中でも三本の指に入るほどの心に残る名作。
これほど素晴らしい作品を書いてくれた西加奈子さんに感謝したい。
ありがとう───。
- 感想投稿日 : 2015年2月4日
- 読了日 : 2015年1月23日
- 本棚登録日 : 2015年1月15日
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