手塩にかけてナオミを育て、妻に迎え入れる譲治が次第にナオミに翻弄され、狂っていく様を描いた歪んだ、そして純粋な愛の物語。
古典文学は現代の人には読みづらいという固定観念があったけど、谷崎潤一郎は読みやすいし、特にこの作品は場面場面で両者の力関係が移っていく様がとても鮮やかで、色彩豊かな絵画の細部を少しずつ目で追っているような感覚だった。
色彩のことを引き合いに出したけど、ナオミ自身の肌の色の白さ、ナオミの内面的などす黒さが印象に残っていて、真っ白な絵の具に一滴でも黒の絵具を垂らすともう完全な白にはならず、汚されていくしかないことを思った。ナオミの肌の白さは、内面のイノセントな黒さゆえに一際目立って譲治の前に映し出され、それゆえに譲治は貴重に大事に拝むあまりマゾヒズムへと堕ちていく。
読む前は肉体的、性的なサド、マゾが描かれるとばかり思っていたけれど、精神的なサド、マゾが中心に描かれている分、ストーリーが深遠なものになっていた。
もちろん読んで面白かったけれど、純粋に怖く感じたし、好奇心でその怖さにまた触れてみたくて読み直してしまいそう。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2020年5月21日
- 読了日 : 2020年5月21日
- 本棚登録日 : 2020年5月21日
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