霧の国―チャレンジャー教授シリーズ (創元SF文庫)

  • 東京創元社 (1971年9月10日発売)
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本棚登録 : 43
感想 : 4

<科学者VS心霊術! 作者の心境の変化から、驚愕の展開へ>


 奇人変人博士チャレンジャー教授が織り成す科学冒険シリーズ(?)、驚きの第3作☆
 実は長い間、チャレンジャー教授シリーズは本作で最終回とばかり思いこんでいました。すみませぬ……★ しかし、それと言うのもシリーズそのものが破綻してしまい、続けられそうに思えなかったからなのです。

『霧の国』では、チャレンジャー教授の愛娘イーディスが、新聞記者マローン氏とともに心霊教会を取材。そこで、鬼籍に入っていたあのサマリー氏の霊がキて、チャレンジャー教授へのメッセージを受け取ってしまうのです。
 チャレンジャー本人に伝えるも、スピリチュアルな世界を認めたくないのが科学者の性(サガ)というもの★ 霊媒たちを激しくののしり、スピリチュアルを拒む教授でした。ところが、娘イーディスの様子に異変が……!?

 実地調査を行って根拠を確かめ、合理的に説明がつくこと以外は認めないチャレンジャーの目の前で、どうしても信じるしかない出来事が起きてしまうのです。ある意味において、チャレンジャー教授が完全敗北した、と言える結末に、困惑必須★

 ジュリアン・シモンズ著『コナン・ドイル』を読んだ後で本書をあらためると、身内が霊媒の才能を開花させて(?)一家でスピ系の沼に落ちる経緯が、ドイル自身の人生譚と交錯して、なぜこんな作品が生まれたかを窺い知ることができます。

 くだんの評伝に描かれたドイルは、堂々としたスポーツマンタイプで行動力に富み、愛国心ゆえの扇動家の一面も。しかし結局、戦争が誰かの大切な人を奪っていく面に気づかないわけがなかっただろうし、自身も家族を亡くした影響ははかりしれないなぁという印象です★

 どんな苦境にも負けず、信念をもって自分を貫いてきたとしても、親しい人々は河岸へ。正義と情熱の人ドイルの心は、いつしか傷だらけになっていたのでしょう……。作者の痛みと悲しみがもろに影響した迷作です★

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 続はっぴゃくじ
感想投稿日 : 2024年1月1日
読了日 : 2023年12月31日
本棚登録日 : 2023年12月31日

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